【2022年9月18日更新】図解・装飾の追加により記事内容をわかりやすく編集しました。
■第5章 組織の経済学 エージェンシー理論
アドバースセレクションの振り返り
アドバースセレクションを振り返ってみよう。実際のビジネスでは、取引を行う前から情報の非対称性が発生している。その結果として本来望ましい状態の取引ができなるくなるということがアドバースセレクションだった。
取引前の問題としてアドバースセレクションを取り上げたが、
取引後の問題を説明することが今回のお題目である「エージェンシー理論」である。
エージェンシー理論の目的とモラルハザード問題
顧客と関係が続く場合、その顧客が以前ほど注意深く行動しなくことがある。
この行動はある意味では合理的な行動である。優良顧客だった人が何らかの補償ゆえに優良顧客ではなくなることがあるだろう。この問題点は通称「モラルハザード問題」と言われる。このモラルハザードのメカニズムとその対処法を考えるのがエージェンシー理論の目的ということである。
モラルザードが高まる条件
顧客と代理人関係における「目的の不一致」に留意されたい。
これは利害関係の乖離という意味で説明できる。例えば保険会社は加入者に注意深く運転してほしいと企業は思っているが、顧客が保険に入ったが故に注意深さがなくなる。これは、情報の非対称性と目的の不一致によりモラルハザードが高まる。
企業組織と顧客の関係は必ずモラルハザードを持つ。
取引前の問題はアドバースセレクション、取引後の問題を説明することが「エージェンシー理論」である。
人が合理的であるが故に発生する問題が「モラルハザード問題」であり、その解消を考える理論が「エージェンシー理論」である。
■モラルハザード問題
モラルハザードが発生すると何が問題になるのだろうか?問題は主に3つある。
①経営者:大胆な戦略が取れない問題
経営者は株主よりも一般的にリスクを恐れがちになる。反対に、株主は複数企業の株をポートフォリオとして持っていることが多いため、トータルの損失は限定的である。そのため、株主は割と簡単にリスクを取る方向を発言しがちだ。日本でこの現象は特に顕著に見られる。
②経営陣:利益より企業規模を重視する問題
通常、株主は株価の最大化を期待する。しかし、経営者は利益よりも多少無理をしても企業の成長を重視する傾向がある。この場合の企業が成長を目指す限りは、人員削減も必要ないし自身の給与カットも必要ない。この傾向は、経営陣が自由に使えるキャッシュフローが潤沢にあるときに発生する問題である。このことを別名、キャッシュフロー仮説ともいう。
③経営者:経営者の報酬の問題
経営者は自社の報酬を業績以上に高額に設定する可能性が発生する。
このような精神論的な解決法からの脱却を目指す場合、どのような対策が必要になってくるのでしょうか?解決策を考えてみよう。
■モラルハザード問題への解決策
モラルハザードを解決するためには、「情報の非対称性」と「目的の不一致」を解消する組織デザインとルールを作ることが何より重要となってくる。
モラルハザード問題の解決方法
基本的には下記2パターンが考えられる。
I.「情報の非対称性の解消」を目指す
→ ①モニタリング導入による解消 ②社外取締役、監査役の導入
II.「目的の不一致の解消」を目指す
→ ③インセンティブ導入による解消法
①モニタリングによる解消を目指す
モニタリングとは、顧客側が代理人を監視する仕組みを組織に取り入れ、「情報の非対称性」の解消を目指すものである。
②社外取締役、監査役の導入
企業が外部から取締役監査役を受け入れることも解消の一助になる。社外取締役は株主ではないが、それでも企業の中に外部からの目が入ることで企業の透明性が高まり、株主に対する「情報の非対称性」の解消が期待できる。
③インセンティブによる解消法
先に述べたこととは異なり、「目的の不一致の解消」を目指すことがインセンティブによる解消である。インセンティブはプレイヤーの行動の動機付けと理解していただければと思う。
インセンティブに関しては、経営者が業績連動型の報酬を受けることやストックオプションの付与が代表的な手段にあたる。ストックオプションとは数年後に自社の株がある一定の段階まで業績を延ばせれば、その株をあらかじめ決められた低い価格で購入できる権利のことである。その株を持つ経営者は自社の株価を増大させるインセンティブを持つため株主と利害の一致が期待できる。
■モラルハザードへの解決策の反乱
I. モニタリングへの反乱
①従業員のモニタリングコストが発生 ②大株主の小規模企業へのモニタリングの限界
上記2点は非常によく挙がる例である。
もし、社外取締役が上手く機能しない場合には、モニタリングのリコールも選択肢として挙がる
II. ストックオプションによるインセンティブの反乱
①経営者が粉飾決算を行うインセンティブが高まる反乱
モラルハザード問題を解消するために取り入れたはずの仕組みが、逆にモラルハザードを助長することが発生することがある。
以上により企業組織の抱える問題に関してモラルハザードの解消の策を検討する際ためには、慎重に考慮する必要がある。
■エージェンシー理論
改めてエージェンシー理論を定義すると以下のとおりになる。
エージェンシー理論=「情報の非対称性」を前提とし代理人の行動の利害と一致しないときに発生する問題の構造を明らかにし、その問題に対処する方法を考察する理論である。
よく考えてみると、実際の企業でエージェンシー理論の解決に遂行している企業は存在するだろうか?
その問いに関しては、同属企業の例が挙がる。
同族企業は一般の企業より業績が高くなりうる傾向が研究により示されている。日本企業の問題を考えてみるとリスク回避的な思考を持った社長が大胆な戦略を打てないことにあると思う。しかし、同族企業の経営者は投資家と同じビジョンを持ち、しかも創業家の思考がインストールされていることが多いため大胆な戦略を打ってもリスクが小さくなる。
したがって、同族企業の経営者は創業家に支えられブレのない戦略を打てる。その反面でネガティブな面も存在する。決して、家族全体が能力が高いとは言い切れない問題も存在している。
ここまでのまとめ
■まとめ
今回は、【組織経営】エージェンシー理論とは?【3分解説】ついて紹介しました。
今回の記事をおさらいしますと次の通りです。
【総まとめ】
・取引後の問題を説明することが「エージェンシー理論」である。
・人が合理的であるが故に発生する問題が「モラルハザード問題」であり、その解消を考える事がエージェンシー理論である。
・エージェンシー理論=「情報の非対称性」を前提とし代理人の行動の利害と一致しないときに発生する問題の構造を明らかにし、その問題に対処する方法を考察する理論
・モラルハザード問題
①経営者:大胆な戦略が取れない問題、
②経営陣:利益より企業規模を重視する問題
③経営者:経営者の報酬の問題がある。
・解決策
I.「情報の非対称性の解消」を目指す
→ ①モニタリング導入による解消②社外取締役、監査役の導入。
II.「目的の不一致の解消」を目指す
→ ③インセンティブ導入による解消法がある。
最初の壁となる経済学 基礎編【基本編】を学んできました。如何でしょう、ハードルが相当下がったと感じていただけたでしょうか。全く苦にならないレベルと感じていただけたら幸いです。
これから経営を始めたい、初学生の方の登竜門とも言える理論ですので、ぜひご活用ください!
以上、最後まで記事を読んでいただきありがとうございました。