【2022年9月18日更新】図解・装飾の追加により記事内容をわかりやすく編集しました。
■第6章 組織の経済学 取引費用理論(TCE)
取引費用理論(TCE)とは
企業の存在意義は何で決まると思いますか?
それは、全て「取引コスト」で決まると言っても過言ではありません。
そんな時に学んでおくと良い理論が、「取引費用理論」です。
取引費用理論は、ポーターのリソースベーストビュー(RBV)と並んで非常に影響力を持つ理論となります。
取引費用理論(TCE)は誰が考えた?
取引費用理論の発展に貢献した研究者は、シカゴ大学のロナルド・コースとカルフォルニア大学バークレー校のオリバー・ウィリアムソンという人です。
両者ともノーベル経済学賞を受賞をしています(前者は1990一年、後者は2009年ノーベル経済学賞受賞)
取引費用理論の目的は?
企業(組織)間の取引で発生するコストを「最小化」する形態やガバナンスを見いだすこと
取引費用理論(TCE)のポイントは?
取引費用理論を考えるポイントはズバリ「人」について考え始めるところからである。
重要な点は「限定された合理性」といったキーワードが重要な考えの基盤となる。
「限定された合理性」とは?
合理主義を追求した人間が「非人間的」なことを追求する意味ではない。
人が合理的に意思決定をするといった前提は変わらないが、「人は限られた将来を見通す範囲で合理的に意思決定を行う」といった理論がベースとなる。
将来の予測の難しさ
経営者は、常に将来を見据えて意思決定を行う。しかし、実際に将来に何が起きるかを見通す事は極めて難解である。
事前にいくら予測をしても、想像できなかった不測の事態が起きてしまう。特に深刻な問題に発展するのは取引に付随する契約や策定の時である。
経済学では「ホールドアップ問題」として取り上げられることがある。
例えば、GM社がフィッシャーボディ社に対し値下げを強制できなかった例が存在する。具体的には、価格対応について、下請けメーカーとの間に明確な取り決めが契約でなされていなかった問題である。加えて、当時は車体の供給先がフィッシャーボディ社以外に見つけられなかったために値下げをできなかった事例が存在している。
■ホールドアップ問題
ホールドアップ問題の原因
GM社がフィッシャーボディ社に対し値下げを強制できなかった原因は何かということだ。これは、契約の際に、両者は10年の専売契約を結んでしまっていた。そのため、急な環境変化に対応できず、車両供給元の変更は難しくなってしまった。
このホールドアップ問題に対しての解決策を考えることが「取引費用理論」である。
ホールドアップ問題の各論
ホールドアップ問題に対する問題の各論はどんなことがあるのか
①予測に対する困難性
合理性を追求した「人」の合理性が生じると、ビジネスにおける将来の見通しが非常にやり易い環境とやり難い環境が発生する。
②取引の複雑性
ビジネスには取引上の特殊性が存在する。具体的には、もう一方の企業に情報や技術、ノウハウが蓄積されてしまうことである。
IT業界におけるアウトソーシングはその典型である。社内の重要情報が社外のベンダーに蓄積されている場合、社外の者によってカスタマイズされた複雑なITシステムが組み込まれてしまうと、その結果ベンダーに高い金額を払って再発注するしかなくなる。
③自分本位な行動
相手を出し抜いてでも自分の得となる行動をとることがある。つまり、機械主義的な行動ということだろうか。
この問題は、企業の合理的な意思決定の帰結として生じるものであり、決して倫理的な問題ではない事に注意である。
ホールドアップ問題の解決策
解決策:①様々な取引を企業に内部化することで、取引における様々なコストを解消することができる。
輸送に係るコスト、取引に係るコスト、資産特殊性の3条件が高い場合は市場での取引コストがかかりすぎる傾向にあるので、取引相手のビジネスを自社内に取り込んでコントロールすべきということである。
これが、取引費用理論の目的である。その判断に重要なのが市場での取引コストである。
内部化の範囲とはどのくらいか?
バリューチェーン上において自社内で取り込む部分はどこまであろうか。突き詰めると、内部化された部分がIT企業の範囲になる。もし、外注したままの方が効率が良いのであれば企業の範囲は変わらない。
■取引費用理論の帰結
取引費用理論の深掘り
よくビジネスパーソンの間で「実証的な理論」なのか「規範的な理論」なのか混同される例が散見される。
※実証的な理論:ある現象のメカニズムそのものを説明する理論
※規範的な理論:企業社会などの特定の対処にとって「〜すべき」という望ましい方向性を導き出す理論
「取引費用理論」は規範的理論よりである。
ホールドアップ問題によって取引コストが掛かりそうなので、市場で取引を続けるより内部化した方が効率が良い。だから、そう「すべき」という基本的な命題が導ける。
こう考えると、取引費用理論が現実を正確に説明するかどうか検証するときは、企業が実際に取引を内部化しているかどうかを見るだけでは十分ではないことになる。基本的な取引費用理論の本質を検証するためには、事後的な効率性やパフォーマンスを分析することが欠かせない。
取引費用理論の検証
効率性やパフォーマンスを検証した研究では、米国のトラック輸送産業2552社で行った実証研究がある。企業がトラックの運転手を自社ドライバーに頼ることもあれば外部企業に外注すると言った典型的な外注化の決断問題だ。
結果としては、取引費用理論の行動をとる企業の方が事後的なRIOが高くなることを明らかにした。
一般に取引コストを抑えようとするほど相手をコントロールする必要がある。そのために投下する資金や生産コスト、販管費などがかかってしまう。逆に合弁企業のように新しい組織を作るよりは、技術ライセンシングの方がはるかに投下する資金はかからない。
すなわち、TCEの視点からは、取引コストを抑えられるコントロール度合いとそのための様々な諸経費の出費はトレードオフの関係にあり、企業はそのトレードオフの中で自社取引に最適なガバナンスを見つける必要がある。
取引費用理論の重要性
この理論を考える上で重要なのが「国際化の進展」である。企業が海外に進出する際の進出モードの選択に有用である。
TCEから見て取引コストが高くなる進出はどこだろうか。いわゆる新興市場と呼ばれる国々である可能性が高い。理由としては、新興市場には司法制度が整っていないところが多いからだ。
日本企業がこれから進出していくのは軒並み新興市場になるだろう。このような国々では日本や先進国で想定していた以上に取引コストが上昇し、ホールドアップ問題が深刻化するなどをあらかじめ規定すべきではなかろうか。
その対応として優秀な弁護士の確保が当然重要だが、取引コスト内部化するモードの選択などの戦略的視点が重要である。
別の視点でも考えたい。世界的に見れば市場の取引誤差は間違いなく低下傾向にあるとの見方だ。その理由はITの進展にある。IT業界では様々な市場取引の契約が国境をまたいで一瞬で完了する。
現在では立ち上がって間もない企業が国際化ができる。つまり、ITの普及等で世界全体での取引コストが下がり、小さく若い企業でも取引コストを多くかけずに国際的な市場取引を十分に行える。
■まとめ
今回は、【組織理論】取引費用理論(TCE)とは?【3分解説】ついて紹介しました。
今回の記事をおさらいしますと次の通りです。
【総まとめ】
・取引費用理論(TCE)とは企業(組織)間の取引で発生するコストを「最小化」する形態やガバナンスを見いだす理論である。「人は限られた将来を見通す範囲で合理的に意思決定を行う」といった理論がベースとなる。
・ホールドアップ問題は、①予測に対する困難性、②取引の複雑性、③自分本位な行動である。解決策の1つとしては、様々な取引を企業に内部化することがある。
・「取引費用理論」は規範的理論よりの理論である。取引費用理論の行動をとる企業の方が事後的なRIOが高くなることを明らかになっている。取引費用理論の重要性を考える上で、国際的な視点で重要性を考えることは、今後の日本にとって大切な考えになる。
最初の壁となる経済学 取引費用理論(TCE)を学んできました。如何でしょう、ハードルが相当下がったと感じていただけたでしょうか。全く苦にならないレベルと感じていただけたら幸いです。
これから経営を始めたい、初学生の方の登竜門とも言える理論ですので、ぜひご活用ください!
以上、最後まで記事を読んでいただきありがとうございました。