生成AIの進化が止まりません。
特に、GPT-4o(OpenAI)と並ぶ最先端モデルとして話題になっているのが、**「DeepSeek-R1」**です。
しかし、こんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
✅ DeepSeek-R1って、結局どんなAIなの?
✅ 従来のChatGPTやClaudeとどう違う?
✅ なぜ強化学習(RL)だけで思考力を獲得できたのか?
✅ 商用利用や小型モデルへの応用は可能?
本記事では、「DeepSeek-R1」の技術的背景から、
驚異的な思考力を獲得したメカニズム、さらに今後のAI技術の展望まで、
AIエンジニア & データサイエンティスト視点で徹底解説します。
これを読めば、**DeepSeek-R1がどのようにして「AIの未来を切り開いたのか」**がハッキリ分かるでしょう!
それでは、DeepSeek-R1の全貌を詳しく見ていきましょう! 🚀
【本記事のもくじ】
- 1 【DeepSeek-R1】強化学習で思考力を高めたLLMの全貌と今後の展望
- 1.1 1. DeepSeek-R1の前提──「DeepSeek-V3-Base」とは?
- 1.2 2.「DeepSeek-R1-Zero」──強化学習だけで思考力を獲得
- 1.3 ◆ なぜLLMに強化学習が有効なのか?
- 1.4 ◆ GRPO(Group Relative Policy Optimization)の利用
- 1.5 ◆ コールドスタートのハードルと驚きの成果
- 1.6 3. DeepSeek-R1の完成形──SFTとRLの反復で強化
- 1.7 ◆ SFT(教師付き微調整)の役割
- 1.8 ◆ 強化学習の2段階適用
- 1.9 ◆ 最終評価:OpenAIモデル並みの能力獲得
- 1.10 4. 小型モデルへの「蒸留」とその比較実験
- 1.11 ◆ 蒸留の基本プロセス
- 1.12 ◆ 小型モデルをRLで鍛えるのは難しい?
- 1.13 5. 「DeepSeek-R1」が示唆する今後の展望
- 1.14 6. 総括──シンプル報酬で思考力を獲得する“RL×LLM”の可能性
- 1.15 ◆ 参考:関連研究「DeepSeekMath」
- 1.16 7. まとめ
1. DeepSeek-R1の前提──「DeepSeek-V3-Base」とは?
そもそも「DeepSeek-R1」はゼロから作られたわけではない
「DeepSeek-R1」は、新規に開発されたモデルではなく、**「DeepSeek-V3-Base」**という既存のLLMをベースに強化学習(RL)やSFT(教師あり微調整)を適用して強化されたモデルです。
DeepSeek-V3-Baseの特徴
✅ 超大規模モデル(パラメータ数 681B)
✅ 多言語対応(英語・中国語を主軸に、広範なデータで事前学習)
✅ オープンソース(重み公開 & API提供)
✅ GPT-4クラスの能力(特に推論系タスクで高評価)
この「DeepSeek-V3-Base」をベースに、さらに強化学習(RL)とSFTを組み合わせて性能を最大化したのが「DeepSeek-R1」なのです。
◆ 「DeepSeek-V3-Base」って何?
- パラメータサイズが681Bという超大規模モデル。
- 多言語学習や大規模webコーパスからの事前学習を経ており、既時点で**「GPT-4o(OpenAI GPT-4相当モデル)クラスの能力」**を持つとされている。
- オープンソースで重みが公開され、さらにAPIサービスとしても非常に低コストで利用できるのが特徴。
● DeepSeek-V3-Baseの人気と課題
- API利用料は安価だが、中国系企業から提供されているという事情もあり、商用利用時のデータ取り扱いには注意が必要。
- モデル自体はすでに教師付き微調整(Instruction Tuning)済みのChat版も公開されている。
この「DeepSeek-V3-Base」のモデル構造やブロック構成は手を加えず、あくまで**学習スキーム(強化学習やSFT)**を工夫して性能を底上げしたのが「DeepSeek-R1」と言えます。
「DeepSeek-R1」の開発過程で最も注目すべき中間成果が、**「DeepSeek-R1-Zero」**です。
これは、教師データ(SFT)なしで、強化学習(RL)だけを用いてモデルの推論能力を向上させたバージョンです。
まず論文で大きく取り上げられているのが、「DeepSeek-V3-Base」に対し強化学習のみを適用して
得られた中間成果「DeepSeek-R1-Zero」です。
いわゆる“Zero”という名は、かつての「AlphaGo Zero」を連想させるもので、
“人間教師データ(SFT)を使わず、RLのみで思考力を鍛える”という姿勢を表しています。
◆ なぜLLMに強化学習が有効なのか?
● 強化学習(RL)とは?
- 強化学習は、一連の行動シークエンスによって最終的な「報酬」を得ることを目指す学習方式。
- 盤面ゲーム(チェス、囲碁、将棋など)や自動運転・ロボット制御など、「行動→結果の評価」が明確な問題に適用しやすい。
LLMはテキスト生成をトークン単位で行うため、各トークン出力を「行動」としてみなせば、**「最終的に“良い文章”を出せたかどうか」**によって報酬を与えることができる、というのが一つの捉え方です。
● 報酬モデルの問題
通常のRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback)では、「人間が手動で“良い出力”“悪い出力”を評価したデータ」を基に報酬モデル(Reward Model)を学習し、それを使ってLLMに報酬を与えます。しかし膨大なデータを手動でラベリングするのは大変です。
● “ルールベース報酬”への切り替え
本研究が面白いのは、報酬モデル自体を作らず、ルールベースのスクリプトで合否を判定してしまった点にあります。
- 具体例:
- 数学問題であれば、最終的に提示された答えが“正解かどうか”を自動判定。
- 解答フォーマットが指定通り(例:
<think>...</think>
で思考を囲う)になっているかをチェックし、ずれていれば罰則。
この2点のみという極めてシンプルな報酬設計でありながら、意外なほど強力な思考能力を獲得したのが「DeepSeek-R1-Zero」のユニークさです。
◆ GRPO(Group Relative Policy Optimization)の利用
深層強化学習ではしばしばPPO(Proximal Policy Optimization)が使われます。PPOは、**方策(Policy)と状態価値(Value)**の2つのネットワークを並行して学習させるのが一般的。
しかし大規模LLMにPPOをそのまま適用するのは計算コストが膨大。そこで本研究チームは、過去の論文で提案した**GRPO(Group Relative Policy Optimization)**を本格採用しています。
● GRPOの仕組み
- バリューネットワークを作らない:状態価値(V)を明示的に近似しない。
- 代わりに複数の生成結果を“同時に”出力して、その報酬比較からAdvantageを推定する。
- これにより、PPOで問題になりがちな「更新前と更新後の方策の大きな乖離(policy collapse)」を避けつつ、計算量も削減できる。
複数案のテキスト生成をまとめて評価→平均報酬と比較してどの案が良かったかを相対的に判断→良かった案(トークン列)の確率を上げ、悪かった案の確率を下げる……という繰り返しを行います。
◆ コールドスタートのハードルと驚きの成果
● “たった2種類の報酬”で思考能力獲得
- 報酬①:答えの正否
数学の場合は「式が正解かどうか」、プログラミング問題なら「テストケースをパスするかどうか」のように、機械的に判定できる。 - 報酬②:フォーマット一致
<think>
タグ内に思考を書き、<answer>
タグに最終回答を書くなど、指定フォーマットを守れないとペナルティ。
こうした極めてシンプルな報酬設計だけで学習を進めても、最終的にモデルが自律的に思考を組み立てるようになった。中でも途中の推論を「Wait, wait. That’s an aha moment. Let’s reevaluate…」などと自分で振り返る場面が観察され、“Aha Moment”として論文内で報告されています。
● ここでわかる強化学習の妙
従来の教師あり学習(SFT)や単純な次トークン予測(LM pre-training)とは異なり、「最終的に報酬を最大化するためにはどういう中間トークン列を生成すれば良いか」をモデル自身が試行錯誤する。
その結果、人間が明示的に「ステップバイステップで検算をしなさい」と教えなくても、モデルは“自己検証”するやり方に行き着く可能性があるのです。
● 残る課題
- 学習初期段階、正解を全く出せないと報酬が稼げない → 強化学習が不安定になりやすい(コールドスタート問題)。
- 出力が多言語混在のまま統制されず、人間には読みにくい。
(思考力は高いが可読性に難がある状態)
3. DeepSeek-R1の完成形──SFTとRLの反復で強化
「DeepSeek-R1-Zero」は強力でしたが、以下の課題がありました。
❌ コールドスタート問題(最初は正解を出せないため学習が安定しない)
❌ 出力の可読性が低い(数理推論は強いが、文章が読みづらい)
そこで、本研究チームは以下の手法でモデルを改良しました。
次のステップとして、SFT(教師付き微調整)+RLを複数段階に分けて適用する戦略が取られています。
最終成果物が、各所でOpenAI並みとも称される「DeepSeek-R1」です。
◆ SFT(教師付き微調整)の役割
目的①:コールドスタート問題の解決
- いきなりRLを回すより、事前にある程度“正しい形式の解答例”を少量でも覚えさせることで、初期状態で報酬を得やすくする。
- 具体的にはCoT(Chain-of-Thought)データを数千件程度用意し、モデルに「推論過程+最終回答」の出力例を教える。
これでモデルが“ステップバイステップに解答する”やり方を初めからある程度知った状態で、強化学習に入れるようになるため、収束が早まるわけです。
目的②:出力の可読性向上
- 既定のフォーマット(
<answer>
部分に簡潔な答えを書く等)や、Markdown的に整形された文書例をSFTで学習させる。 - 多言語が行き来しないよう、特定言語へのバイアスを高めるようなデータを混ぜる。
これにより、DeepSeek-R1-Zeroで問題だった「急に中国語に切り替わる」などの不統一も大幅に減らせる。
◆ 強化学習の2段階適用
SFTを挟んだ後、再度**強化学習(RL)**を適用し、モデルの思考力をさらに磨き上げる手順が用いられます。
- 第一段階で、SFT後のモデルに対して数学や論理タスクにルールベース報酬を適用。言語一貫性報酬も追加し、人間が読みやすい出力をキープしながら推論力を強化。
- 第二段階でもう一度SFTを行い、さらに汎用ドメインのデータ(ライティング、Q&A、ロールプレイなど)を取り込み、最終的な無害化や言語統制を狙う報酬モデルを導入。
このように**「SFT → RL → SFT → RL」**と反復し、モデルを段階的にアップグレードしていくのが本研究最大の貢献と言えます。
● 報酬モデルとルールベースのハイブリッド
- 数学や論理は依然としてルールベース判定が可能だが、オープンエンドなクリエイティブ文章や安全性(トキシック判定など)はルールベースが難しい。
- そこでニューラルベースの報酬モデル(事前のOpenAIスタイルのRLHFにも近いもの)を併用し、総合的に報酬を算出している。
◆ 最終評価:OpenAIモデル並みの能力獲得
論文中のベンチマーク結果によると、「DeepSeek-R1」はOpenAIのo1モデル(仮称:GPT-4o相当?)と極めて近いスコアをマークするとのこと。また、いくつかの数理推論ベンチマークでは、既存のオープンソースモデルの中では最上位クラスという評価が示されています。
もちろん汎用性では完全にOpenAIモデルを上回ったわけではなく、例えば以下のような弱点も残る:
- ロールプレイや複雑な会話管理:一部でDeepSeek-V3の方がまだ自然な対応をするケースがある。
- コード生成タスク:ある程度LeetCodeレベルの強化学習はしたが、実用的に大規模コードを書く課題は未着手な部分が多い。
- プロンプト依存性:Few-shotプロンプトが逆にモデルの思考を混乱させるなど、プロンプト設計が難しい。
とはいえ、そこまで大量のステップを費やさず、比較的低コストな報酬設計でここまで強力な推論性能を実現したのは非常にインパクトが大きいです。
4. 小型モデルへの「蒸留」とその比較実験
「DeepSeek-R1」は数百B超のパラメータを持ち、個人ユーザの手元で動かすには厳しい。そこで小型モデルへ“知識継承”するための技法として、蒸留(distillation)が論文後半で扱われています。
◆ 蒸留の基本プロセス
- DeepSeek-R1に多様なプロンプトを入力し、出力(思考過程+回答)を大量にサンプルしてデータセット化する。
- そのデータセットを**「Qwen2.5」シリーズや「Llama-3.x」シリーズ**といった小型モデルに対して教師付き学習(SFT)する。
- 小型モデルが大モデルの出力形式や思考スタイルを真似ることで、大幅な性能向上が期待できる。
◆ 小型モデルをRLで鍛えるのは難しい?
実験結果
❌ 小型モデルにRLを直接適用 → コールドスタート問題で学習が進まない
✅ 大モデル(DeepSeek-R1)の出力を蒸留 → 小型でも高精度な推論が可能
この結果から、「まず大規模モデルでRLを適用し、その知識を蒸留する方が効率的」であることが示されました。
5. 「DeepSeek-R1」が示唆する今後の展望
論文の最後には、今後取り組むべき改善点として以下が挙げられています。
-
高度なチャット制御・ロールプレイ
- DeepSeek-V3が強かった部分と比較して、DeepSeek-R1はまだ完璧ではない。
- システムプロンプトを複雑化したときの挙動など、追加検証が必要。
-
多言語混在の完全防止
- 現時点では英語・中国語のバイリンガル最適化が主流で、他言語への対応は制限が多い。
- 今後は国際的に使われるため、多言語一貫性の強化が重要。
-
プロンプトエンジニアリングの難しさ
- Few-shot例を盛り込むと却って推論が崩れるケースがあるため、Zero-shotが推奨されている。
- 入力の形式をどう設計すれば能力を最大限引き出せるか、知見がまだ限られている。
-
コード生成のさらなる強化
- LeetCode問題など、テストケースが自動評価可能な部分は取り組んでいるが、大規模なソフトウェア・プロジェクトレベルの学習や実用的IDE連携は未対応。
- コード生成を強化学習で鍛えるためには、大量のコンパイル・実行・テストを常時回す必要があり、コストが大きい。
いずれにしても、強化学習を通じて推論力を高める路線は今後も発展の余地が大きいでしょう。最初は数学のような自動で正解チェックできる分野を皮切りに、より複雑なタスク(推論が複数の評価軸に依存する)にも展開しようという動きが起きています。
6. 総括──シンプル報酬で思考力を獲得する“RL×LLM”の可能性
「DeepSeek-R1」は論文で示される通り、
- 第一に、ルールベース報酬+GRPOという低コストな仕組みだけで、数理推論を中心とした高度思考をモデルに身につけさせた。
- 第二に、SFT→RL→SFT→RLと段階的に繰り返すことで、単なる推論能力にとどまらず、言語一貫性・安全性・多機能性を兼ね備えた汎用LLMへ仕上げている。
- 第三に、蒸留によって小型モデルへの技術継承も視野に入れ、実用面にも配慮した設計。
オープンソース界隈では近年、LLMの強化学習適用が続々と登場しているものの、報酬モデル構築の難しさや大規模学習のコストからなかなか実用レベルに至らないケースも多いです。
ところが「DeepSeek-R1」は「数学タスクなど自動採点可能な領域に絞れば、大規模データをフル活用できる」という強みを最大限に発揮し、“意外なほど効率よくモデルが自律的に高度思考力を発揮する”ことを示しました。
今後、他分野(コード生成、長文読解、ロジスティック最適化など)でも、自動的に“結果の良し悪し”を判定できる仕組みを整えれば、同様の強化学習手法が大きく性能を引き上げる可能性があります。さらに、そこから蒸留などを使えば、小型モデルでも手軽に高度な推論が行えるようになるでしょう。
「DeepSeek-R1」の事例は、まさに“強化学習とLLMの組み合わせ”のフロンティアを切り開いたと言っても過言ではないのです。
◆ 参考:関連研究「DeepSeekMath」
本論文の背景にある「DeepSeekMath」では、大規模な数学特化コーパスを収集する手順が詳述されています。
- Common Crawlなどから数学関連ページを分類するために、まずFastTextを使ってラフなフィルタリングを行い、
- “親ドメインごとにどの程度Math度合いが高いか”を判定して繰り返し取得する手法、
- 人手ラベリングと機械分類を組み合わせ、最終的に数百億トークン級の専門コーパスを集積。
これらのステップが、高精度かつ多様な数学データセットを用意できた鍵となっており、強化学習での大量学習を支える基盤になっています。
7. まとめ
本稿では、「DeepSeek-R1」論文をAIエンジニア兼データサイエンティストの視点から徹底的に解説しました。
ポイントを再掲すると、
-
元モデル「DeepSeek-V3-Base」の優秀さ
既に大規模で高性能。構造はいじらず学習スキームだけ改良する余地が大きい。 -
“DeepSeek-R1-Zero”の衝撃
強化学習のみ(ルールベース報酬+GRPO)で思考力が爆発的に伸び、途中推論を自己点検する“Aha Moment”が観察される。 -
SFT→RLを繰り返すアプローチで完成度UP
コールドスタート問題を克服し、言語一貫性・汎用タスク対応・安全性を高めたのが最終版「DeepSeek-R1」。 -
小型モデルへの蒸留実験
RLを直接小型モデルに適用するよりも、高性能大モデルで学習済みの出力をSFTするほうが効果的。 -
将来の課題
- コード生成や複雑なロールプレイなど、一部タスクではまだ余地を残す。
- 多言語混在の完全制御、プロンプトエンジニアリングの難しさなども未解決。