Kaggle画像コンペで上位を目指すためには、単にモデル選択やハイパーパラメータ調整を行うだけでは不十分です。これらの手法は誰もが実践しており、差別化には繋がりにくいからです。
では、どうすれば他の参加者と差をつけられるのでしょうか?その答えの一つが、タスク固有の「ドメイン知識」を活用することです。

本記事では、Kaggle画像コンペにおいてドメイン知識を反映させた特徴量エンジニアリングを中心に、実践的な手法を詳しく解説します。特に、初心者〜中級者(Kaggle Expertランク前後)の方に向けた内容となっています。

【本記事のもくじ】


ドメイン知識とは?

ドメイン知識とは、特定の課題や分野に関する専門的な知識や背景情報を指します。
画像コンペで言えば、タスク固有の画像の特性や、それを解くために必要な理論・実践的アプローチなどが含まれます。

ドメイン知識を活かすとは?

単にモデルにデータを入力して学習させるのではなく、「人間が知っている情報をモデルに反映させること」がポイントです。例えば、以下のようなケースを考えます:

  • タスク例:画像から果物(例:バナナ)を検出する
    • 人間は「バナナは一般的に黄色く、湾曲している」という特徴を知っています。
    • しかし、モデルはその知識を持っていないため、学習データだけからその特徴を理解する必要があります。
    • さらに、青いバナナや皮をむいた白い果実など、例外的なパターンも考慮する必要があります。

このような「背景知識」をモデルに与えることで、学習効率を高め、モデルの性能を向上させることができます。


ドメイン知識を活かすための具体的手法

画像コンペでは、以下の手法がドメイン知識を活用する上で有効です。

  1. 特徴量エンジニアリング(本記事の主題)
    モデルが学習しやすい形でデータを追加・変換します。

  2. タスク特化のLoss関数
    目標に特化した損失関数を設計することで、モデルの最適化を効率化します。

  3. データAugmentationの工夫
    データ分布を意識した変換を施すことで、モデルの汎化性能を向上させます。

  4. モデルアーキテクチャのカスタマイズ
    タスク固有の要件に応じて、特別な構造を設計します。

  5. 専用のデータパイプライン設計
    特殊な前処理・後処理を通じて、モデルの性能を引き出します。

この記事では、特に特徴量エンジニアリングにフォーカスし、基本的なアプローチから応用までを詳しく解説します。


特徴量エンジニアリングとは?

特徴量エンジニアリングは、「モデルが学習に必要な情報をわかりやすく追加・加工するプロセス」を指します。
深層学習では、テーブルデータで使用するような特徴量エンジニアリングが不要と思われがちですが、以下のようなケースでは大いに役立ちます。

特徴量エンジニアリングが有効な理由

  1. モデルが知らない情報を追加できる
    モデルは、学習データに含まれる情報しか理解できません。
    例:奥行き情報(デプス画像)や、画像中のピクセル座標など。

  2. 学習効率が向上する
    モデルが推測しにくい特徴を、明示的に与えることで無駄な計算を減らします。
    例:画像上の物体の方向や位置を座標系で追加。

  3. タスクに特化した情報を反映できる
    汎用的なモデルだけでは学習しにくいタスク特有の情報を補強します。
    例:RGB画像に加えてオプティカルフロー(動き情報)を追加する。


特徴量エンジニアリングの具体例

基本的なアプローチ

1. モデルが知らない情報を追加する

ケース1:デプス画像
デプス(奥行き)画像には、カメラの位置関係や三次元空間の情報が含まれています。
これらをそのままモデルに入力するだけではなく、以下のような特徴を追加することで、モデルの性能を引き出せます。

  • 欠損データの扱い
    • デプス画像に「奥行き0」が含まれる場合、それが「欠損値」であることを明示するためのマスク(0/1)を追加します。
  • xyz座標の生成
    • デプス情報とカメラ幾何(焦点距離やセンサーサイズ)を組み合わせ、三次元座標を計算します。

ケース2:画像座標情報
画像中のピクセル座標が持つ意味をモデルに教えることも有効です。
たとえば、CoordConv(座標を含むコンボリューション)やPositional Encodingを活用し、モデルに座標情報を追加します。


2. モデルが理解しやすい形に加工する

スケール変換の重要性
深層学習モデルは、数値のスケールや分布に敏感です。
例えば、以下のような変換を行うことで、モデルの学習を促進します:

  • 距離のレンジ調整

    • 0.1m〜10mの範囲をそのまま入力すると、近距離(0.1m〜1m)の情報が過小評価される可能性があります。
      対数変換や平方根変換を用いて、スケールを調整します。
  • 欠損値の明示

    • 0が「未検出」である場合、float(X==0)のような二値特徴量を追加します。

応用的なアプローチ

1. 異質なデータの結合

複数種類の特徴量を組み合わせる際には、その性質に応じた方法を選ぶ必要があります。

  • 同質の特徴量(例:RGBとDepth画像)
    一層のConv層を挟んで結合します

Inputs = Concat(Conv(RGB), Conv(Depth))

  • 異質な特徴量(例:画像とメタデータ)
    FiLM(Feature-wise Linear Modulation)を活用し、メタデータに基づくスケールやシフトを適用します:

        x_a = Conv(out_ch=32)(features_A)
        scale = Dense(out_ch=32)(features_B)
        shift = Dense(out_ch=32)(features_B)
        x_a = x_a * (1 + scale) + shift

2. 動きや変化を特徴量として利用

動画コンペでは、RGB画像に加えて以下の情報を追加することが有効です:

  • オプティカルフロー
    動きの方向や速度を示す特徴量で、スポーツ分析や物体追跡タスクで有効。
    RAFTなどの手法を用いてフロー画像を生成し、RGB画像とともにモデルに入力します。

  • カメラ動きの補正
    カメラ自体の動きを除去し、撮影対象の動きだけをモデルに伝えます。


実例:Kaggleや論文での活用

Kaggle事例

  • スポーツ分析コンペ
    オプティカルフローをRGB画像と組み合わせ、選手の動きを検出するモデルを構築。1位・2位の解法で広く採用されました。

論文事例

  • ミラー反転の利用(UMIの研究)
    ステレオカメラとミラーを組み合わせたロボティクス研究では、ミラー画像を左右反転して学習させることで、モデルの混乱を防ぎ、精度を向上させています。

特徴量エンジニアリングの効果と課題

効果

  • 精度向上
    特徴量追加が適切に行われた場合、モデルの性能が顕著に向上します。
  • 差別化
    他の参加者と異なるアプローチで独自性を出すことが可能です。

課題

  • 試行錯誤が必要
    全ての特徴量が効果を発揮するわけではありません。試行錯誤を重ねる必要があります。
  • 実装の難易度
    特に幾何情報やフロー情報の生成には、高度な知識が必要になる場合があります。

まとめ

本記事では、画像コンペで勝つためのドメイン知識活用法として、特徴量エンジニアリングを中心に解説しました。

ポイントの復習

  1. モデルが知らない情報を追加する。
  2. モデルが理解しやすい形に加工する。
  3. 異質なデータの結合や動きの情報を工夫する。

次回の記事では、「タスク特化のLoss関数やAugmentation」に焦点を当て、さらなるステップアップを目指します。

最新情報をチェックしよう!