〜生成AIに信頼をもたらす“事前予測モデル”の可能性〜 🚀🧠
はじめに|RAGシステムの精度、もう一段階引き上げませんか?
生成AIの活用が一般化する一方で、「本当にこの回答、正しいの?」と疑いたくなる瞬間は、まだまだ多く存在します。
特に、検索×生成を組み合わせたRAG(Retrieval-Augmented Generation)においては、取得したドキュメントの精度や位置、そして質問の内容に大きく依存します。
そんな中、最近発表された研究が注目を集めています。
キーワードは──「尤度(ゆうど)」。
これは、LLMがどれだけ“自然”と感じている文章なのかを表す数値。
これを活用することで、生成前に回答の正しさをある程度予測できる可能性が示唆されたのです。
本記事では、RAGとハルシネーションの関係に真正面から切り込み、
「尤度」という新たな視点から、AIの回答をどのように見極め、制御できるかを徹底解説します。
尤度(Likelihood)とは何か?|AIが「自然」と感じる文章の秘密
まず「尤度」という言葉になじみがない方も多いでしょう。
簡単に言うと、ある単語やフレーズが、前後の文脈とどれだけ“自然に”つながるかを数値化したものです。
たとえば
「私は朝、コーヒーを__」のあとに続く単語として、
「飲んだ」は尤度が高く、「飛んだ」は尤度が低い、という具合です。
これは、LLMの学習過程に由来します。
LLMは「次に来る単語は何か?」を予測する言語モデルであり、数十億件の文章を読み込むことで、単語の並び方の“自然さ”を学習しています。
この「自然さのスコア」こそが、尤度なのです。
なぜRAGにおいて「尤度」が重要なのか?|検索→生成の落とし穴
RAGは以下のようなプロセスで動作します。
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質問を受け取る
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関連ドキュメントを検索する
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検索結果と質問をLLMに渡して回答を生成する
このプロセスでは、ドキュメントの選び方や配置順序が生成精度に大きく影響します。
もし、正しいドキュメントが文末に押しやられていたり、逆にノイズが前方に配置されていたら?
👉 LLMは“自然に読める”文章の一貫性を優先するため、正解をスルーしてもっとも尤度の高い誤答を選んでしまうリスクがあるのです。
ここで「尤度」が活きてきます。
質問文や生成された回答の尤度を事前に測ることで、「これは正しくないかもしれない」と早期に予測できるのです。
実験|質問文と回答の尤度から「精度」を推定できるのか?
ここからは、実際の研究結果をもとに、どのような傾向が見られたのかを紹介します。
正解ドキュメントの位置と回答の精度
正解ドキュメントが入力の先頭にある場合と、末尾にある場合で、生成される回答の正確性が大きく異なることが確認されました。
そして特に顕著だったのが、
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回答の精度と、回答文の尤度が強く連動していた という点です。
つまり、「尤度が高い=正しい可能性が高い」という仮説がある程度成立することが示されたのです。
尤度と質問文の関係|質問の書き方で正解率が変わる?
次に注目されたのが「質問文そのものの尤度」と、生成される回答の精度の関係です。
結果としては──
質問の尤度が高いほど、回答の精度も高くなる傾向がある
という相関が観測されました。
これは非常に興味深い点で、つまり、「質問の仕方を変えるだけで、より正確な回答が得られる」可能性を示唆しています。
曖昧な質問よりも、自然で明確な質問の方が、モデルにとって理解しやすい。
まさに、人間と同じですね。
ノイズドキュメントの影響は限定的?
一方で、正解でないドキュメントの位置を変更しても、精度や尤度への影響は限定的という結果が出ています。
つまり、「どこに正しい情報があるか」が極めて重要で、
「どこに誤情報があるか」はそれほど影響しない、ということになります。
この知見は、RAGシステムを設計する上で非常に有益です。
リトリーバルの絞り込みや順序制御が、より戦略的に行えるようになります。
応用可能性と注意点|この技術は実運用できるのか?
この研究が示唆する未来は明るいですが、応用にはいくつかの留意点があります。
💡 実用化における課題:
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LLMがすでにその知識を知っていた可能性(知識バイアス)
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正しいが予測しづらい「意外性のある回答」には相関が弱くなる
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専門性が高い分野では、尤度との相関が希薄になるケースがある
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尤度計算には、モデル内部のスコア出力が必要(オープンソースモデルが前提)
とくに最後の点は重要です。
GPT-4やClaudeなどのAPI型LLMでは、内部スコア(尤度)を取得できないため、現状はLLaMAやMistralなどのローカルLLM環境が求められます。
方法の紹介|実際に「尤度」を活用してRAGの精度を向上させる方法
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ローカルで動作するLLM(例:LLaMA 2, Mistral)を準備
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回答生成前に、入力テキスト(質問+文脈)の尤度を計算
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生成後の回答文の尤度も計測し、閾値で「信頼スコア」を設定
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信頼スコアが低ければ、回答の再生成・ドキュメント再選択をトリガーに
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結果を継続的にログし、モデルや閾値のチューニングに活用
このようにすれば、RAGの「盲目的な生成」を制御し、
信頼性を担保した生成AIシステムへと昇華させることが可能になります。
結論・まとめ|ハルシネーションと戦う新たな武器、それが「尤度」🛡️
✅ RAGにおけるハルシネーション問題は、まだ完全には解決されていない
✅ 質問文や回答文の「尤度」を活用することで、回答の正確性を事前に予測できる可能性がある
✅ 尤度は、ドキュメントの配置や質問の書き方にも影響を与える
✅ 導入には、オープンなLLM環境とスコア取得の設計が必要
このアプローチは、まだ研究段階ですが、今後のRAGシステム設計において
「人間のように自然な文章を理解し、評価できるAI」への重要な一歩になるはずです。