【Theme 3】「ニューヨーク大学講義:エネルギーベースモデルの解説」【機械学習・深層学習】

こんにちは、ヤク学長です。

本日は、ニューヨーク大学のデータサイエンスセンターで2021年春に開講された、Yann LeCun教授とAlfredo Canziani教授による「ディープラーニング」の講義に焦点を当ててみたいと思います。

この講義はZoomを通じて週に一度、実践的なセッションも含めて提供され、その全ての教材がGitHubリポジトリで公開されています。講義内容は、基本的なニューラルネットワークの訓練から始まり、最先端のエネルギーベースモデルやグラフ変換ネットワーク、自己符号化器やGANsまで、幅広いテーマを網羅しています。

今回は、これらの講義が私たちの業界、特に医療と薬学にどのように応用可能か、具体的な事例を交えながら掘り下げていきます。未来の医療技術に一石を投じる可能性を秘めたこの講義に、どうぞご期待ください!

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【本記事のもくじ】

Theme 3: エネルギーベースモデルの基礎

3-1 エネルギーベースモデル (I)

エネルギーベースのモデルとは?

エネルギーベースモデルは、従来のニューラルネットや深層学習モデルが一つの入力に対して一つの出力を提供するという構造を超えて、多くの異なる出力を生成できる可能性を持ちます。例えば、フランス語から英語への翻訳、音声認識、画像の高解像度化など、複数の正解が存在する問題に対応できます。

エネルギーベースモデルの特徴は、エネルギー関数を使用して、入力(例:低解像度の画像)と出力(例:その高解像度版)の適合度を評価します。システムは、エネルギーを最小化することによって最適な出力を選びます。

共同埋め込みと潜在変数モデル

講義では、エネルギーベースモデルの2つの代表的なアーキテクチャについても説明されました。

  1. 共同埋め込み(Joint Embedding): 入力xと出力yがそれぞれ異なるネットワークを通り、ベクトルとして表現され、両者のベクトル間の距離がエネルギーとして計算されます。この手法は特に画像認識や自己教師あり学習で活用され、異なる変換を経ても同じ画像内容を同じ表現にすることができます。

  2. 潜在変数モデル(Latent Variable Models): 出力を直接予測するのではなく、潜在変数zを介して出力をパラメータ化する手法。潜在変数を最適化することで、入力xに適合する出力yを見つけることが可能です。この方法は、例えば顔認識や物体検出において、潜在変数を利用して画像と3Dモデルを一致させるといった形で利用されます。

エネルギーベースモデルのトレーニング

エネルギーベースモデルをトレーニングするためには、与えられたデータ点(x, y)に対してエネルギーを最小化するようにパラメータを調整し、同時に適切でない出力に対してはエネルギーを高くする必要があります。この「対照学習(Contrastive Learning)」が一般的な方法で、良いデータ点にはエネルギーを低く、悪いデータ点にはエネルギーを高くするよう学習します。

対照学習は画像認識や自己教師あり学習の分野で非常に人気があり、GoogleやFacebookがこの手法を活用していますが、計算コストが高くなる傾向があります。

結論として、エネルギーベースのモデルは、機械学習やAIの柔軟性を大きく向上させる枠組みであり、特に多様な出力が求められるタスクにおいて有用です。

3-2 LV-EBMsの推論

LV-EBMs(Latent Variable Energy Based Models)とは

LV-EBMsはエネルギーベースモデルの一種で、隠れ変数(latent variables)を扱います。これにより、与えられたデータポイントに対して、複数の可能な結果(yの値)を推定することが可能です。このようなモデルは、通常のニューラルネットワークが1対1の関係を学習するのとは異なり、1つの入力に対して無限の可能な出力を表現できます。

推論(Inference)の概要

今回の講義では、「推論」に焦点を当てています。推論とは、既にトレーニングされたモデルを使用して、新しいデータポイントに対して結果を生成するプロセスです。この講義では、具体的には「楕円(ellipse)」を例にとって、エネルギーベースモデルがどのように働くかを説明しています。

  1. エネルギー関数:
    エネルギーベースモデルでは、エネルギー関数が重要な役割を果たします。エネルギー関数は、観測されたデータポイント(y)と、モデルが生成する仮定された出力(ỹ)の間の距離を測定します。エネルギーが低いほど、その予測がより「適合」しているとみなされます。

  2. 隠れ変数(z)とデコーダー:
    隠れ変数zを使って、デコーダーがỹを生成します。zは連続変数であり、0から2πまでの値をとることができます。zの値によって、楕円の中で異なる位置にỹが配置されます。

  3. 自由エネルギー(Free Energy):
    自由エネルギーは、エネルギー関数の最小値を取るzの位置を見つけるプロセスです。これにより、モデルが最も適合する出力を予測します。このプロセスでは、勾配降下法(Gradient Descent)を使用して、最適なzの値を見つけます。

応用例とトレーニング

次回の講義では、推論ではなくトレーニング方法に焦点を当て、モデルがどのようにデータにフィットするかを説明する予定です。トレーニングでは、エネルギー関数を最小化するようにモデルのパラメータ(w1、w2など)を学習します。

感想

今回の講義では、推論の概念を学ぶために、非常にシンプルな例が使われましたが、実際の問題に適用する際にはより複雑なネットワーク構造が必要です。エネルギーベースモデルは、多様な出力を持つ問題に適しており、今後の応用が期待されます。

講義に対するご意見やご質問があれば、コメントでお知らせください!

3-3 EBMsの有効活用

エネルギーベースモデル(EBMs)の応用

EBMsは、多くの実世界の問題に対して応用が可能です。特に、構造予測やラベルのないデータを用いた学習など、連続的な出力や多対多の関係が必要な場合に効果的です。具体的な応用例として、以下が挙げられます。

  1. 分類器におけるエネルギーの解釈:
    分類器が生成するスコアをエネルギーとして解釈することが可能です。たとえば、ソフトマックス関数の出力スコアは、エネルギーを正負の値として表すことができ、これを利用して正解のエネルギーを押し下げ、不正解のエネルギーを押し上げる学習が行われます。

  2. 音声認識や翻訳:
    音声認識や翻訳のタスクでは、ある入力に対して多くの可能な出力(例えば、無限に近い数の文)が存在します。エネルギーベースモデルは、このような状況で複数の可能な出力のエネルギーを計算し、最も適切な結果を選び出すのに使用されます。

  3. 動画の予測・圧縮:
    動画予測では、過去のフレームに基づいて次のフレームを予測する必要があります。この予測には、前フレームからの不確実な要素(例えば、突然の動きなど)を考慮するために、隠れ変数が使用されます。EBMsは、このような予測と、それに基づく高効率な動画圧縮に応用されています。

  4. 自己教師あり学習(Self-Supervised Learning):
    ラベルなしデータで特徴を学習するための方法として、エネルギーベースモデルが活躍します。Siameseネットワークなどを用いて、同じ画像の異なるバージョンを入力し、それらが同じ出力を生成するように学習します。さらに、異なる画像ペアに対してはエネルギーを増大させ、特徴の区別を学習します。

エネルギーベースモデルの課題

EBMsは、膨大な数の可能な出力に対してエネルギーを計算する必要があるため、特に連続変数や高次元のデータを扱う場合に困難が伴います。たとえば、画像や動画の予測では、非常に多くの可能な変数が存在し、それらを全て考慮することは非現実的です。そのため、効率的なアルゴリズムや近似手法が必要になります。

機械学習における補間と外挿

機械学習全体が「補間」と見なされることが多いですが、高次元のデータ空間ではほとんどのケースが「外挿(extrapolation)」であると説明しています。これは、新しい入力データが、以前のデータの線形結合とはならないことが多いためです。特にエネルギーベースモデルでは、予測が未知の領域に及ぶため、この外挿が重要な課題となります。

結論

エネルギーベースモデルは、多対多の関係や連続的な予測を必要とする様々なタスクにおいて強力なツールです。音声認識、画像生成、動画圧縮、自己教師あり学習などの応用例があり、今後さらに広がる可能性があります。しかし、高次元データの扱いには効率的なアプローチが求められるため、継続的な研究と技術の進歩が必要です。

感想

EBMsの可能性は多岐にわたりますが、その適用には課題も多く、特に高次元の問題を解決するための新しい手法が必要です。興味がある方はぜひ他の講義もチェックしてみてください。

3-4 エネルギーベースモデル (II)

Latent Variable EBMs の概要

EBMsは、シンプルな入力と出力のペアだけではなく、複数の出力や複雑な構造を持つデータにも対応できるように設計されています。隠れ変数モデルは、出力が確定しない複数の可能性がある場合や、連続する入力に対して複雑な関係を持つ出力を予測する際に特に有効です。

例えば、手書き文字認識や音声認識では、文字や音素が連続して現れますが、これらの認識結果は1対1の単純な対応関係ではなく、構造的な予測が必要となります。ここで、EBMsが利用され、入力データに対するエネルギー関数が低くなるような最適な出力を見つけるために、隠れ変数が役割を果たします。

隠れ変数を使ったEBMsの具体的なプロセス

隠れ変数を使ったEBMsは、与えられた入力データに基づいて、最も適切な出力を生成するために、エネルギー関数を最小化するプロセスを採用します。

  1. エネルギーの計算: 入力データ(例:手書き文字や音声波形)に対して、さまざまな出力の可能性が評価され、それぞれにエネルギーが割り当てられます。エネルギーが低い出力がより適切な予測結果として選ばれます。

  2. 構造的な出力の最適化: 出力が単一の値ではなく、複数の要素から成り立つ場合(例:文法に従った文章や複数の物体を含む画像の認識)、エネルギー関数を最小化するために、隠れ変数を調整しながら、最適な出力を探索します。

  3. 最短経路アルゴリズム: これらのエネルギー計算は、グラフの最短経路問題として解釈されることが多いです。例えば、手書き認識では、各文字や音素がどの部分に対応するかを動的に決定し、最も適切な経路を見つけ出します。これが「ビタービアルゴリズム」として知られているプロセスで、エネルギーを最小化する最適な出力を見つけるために使用されます。

構造予測の応用例

  1. 音声認識: 音声信号から特定の単語や文を予測する際、隠れ変数が使われて音素や音声の連続的なパターンをモデル化し、最も適切な予測を行います。

  2. 手書き文字認識: 手書きの単語を認識する場合、文字がどこに配置されるかの不確実性を扱うために、隠れ変数が使用されます。隠れ変数を用いて、各文字の配置と対応するエネルギーを計算し、最も適切な文字列を見つけます。

  3. 画像認識と物体検出: 複数の物体が含まれる画像を認識する場合、それぞれの物体の位置や種類を予測するために、エネルギーベースモデルと隠れ変数が使用されます。

結論

隠れ変数を使ったエネルギーベースモデルは、複雑な構造予測問題に対して強力なツールです。多様な出力の可能性が存在する問題や、連続的な入力データに対する正確な予測が求められる場合に特に有効です。このモデルは、音声認識や手書き文字認識、さらには画像認識など、さまざまな分野で応用されており、構造化された出力を効率的に生成するための重要な手法となっています。

感想

EBMsの可能性は非常に広範囲にわたりますが、実際の応用ではモデルの設計や訓練に工夫が必要です。例えば、適切なエネルギー関数や隠れ変数の選定、最短経路アルゴリズムの適用など、詳細な調整が求められます。ぜひ、この技術を使って、より効率的で精度の高い予測モデルを構築してみてください。

3-5 LV-EBMsのトレーニング

フリーエネルギーの概念

  • ゼロ温度フリーエネルギー: 温度がゼロのときにエネルギーが最小値をとる。これは、通常のエネルギーモデルにおいて重要な概念であり、エネルギー関数
    E(z)E(z)

    の最小値を取る潜在変数

    zcheckz_{\text{check}}

    に対応します。

  • 非ゼロ温度フリーエネルギー: 温度がゼロでない場合、エネルギーは複数の潜在変数によって決まります。これにより、「ソフトミーン」として扱われるエネルギーの平均値が計算されます。

温度とベータパラメータ

  • ベータ(β)パラメータ: 逆温度とも呼ばれ、温度と逆の関係を持ちます。温度が高くなるとベータは低くなり、システムが「柔らかく」なるため、潜在変数に対するエネルギーの寄与が広がります。温度がゼロに近づくと、特定の潜在変数がエネルギーに対してより重要になります。
  • 温度が高くなると: ベータが0に近づき、すべての潜在変数が等しく重要になり、エネルギーの平均が得られます。これにより潜在変数の寄与が平坦化され、システムの識別力が低下します。

エネルギーモデルの学習方法

  • 損失関数: モデルの学習は損失関数によって制御されます。損失関数は、観測データに対するフリーエネルギーの距離を最小化するように設計されます。
    • ヒンジ損失: 良いサンプルと悪いサンプルのエネルギー差を指定のマージンよりも大きくするように調整します。
    • ソフトヒンジ損失: 柔らかいバージョンのヒンジ損失で、完全にエネルギー差が固定されるのではなく、緩やかにその差が広がります。

潜在変数の推論

  • モデルが潜在変数を用いることで、観測データに最も近い潜在変数を見つけ、エネルギーを最小化します。これにより、モデルがデータをより良く予測できるように調整されます。

結論

  • フリーエネルギーに基づくモデルは、温度やベータパラメータを操作することで、潜在変数の重要性を調整できるため、柔軟なモデリングが可能です。
  • 損失関数を工夫することで、エネルギーモデルのトレーニングを効果的に行うことができ、観測データに対するモデルの精度が向上します。

感想

エネルギーベースのモデルは、複雑なデータセットに対して非常に強力なツールです。しかし、温度パラメータや損失関数の設定は難解であり、適切なトレーニングのためには深い理解が必要です。


というわけで、今回は以上です。大変お疲れ様でした。
引き続きで、徐々に発信していきます。

コメントや感想を受け付けています。ちょっとした感想でもいいので嬉しいです。

それでは、以上です。

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