こんにちは、ヤク学長です。
本日は、ニューヨーク大学のデータサイエンスセンターで2021年春に開講された、Yann LeCun教授とAlfredo Canziani教授による「ディープラーニング」の講義に焦点を当ててみたいと思います。
この講義はZoomを通じて週に一度、実践的なセッションも含めて提供され、その全ての教材がGitHubリポジトリで公開されています。講義内容は、基本的なニューラルネットワークの訓練から始まり、最先端のエネルギーベースモデルやグラフ変換ネットワーク、自己符号化器やGANsまで、幅広いテーマを網羅しています。
今回は、これらの講義が私たちの業界、特に医療と薬学にどのように応用可能か、具体的な事例を交えながら掘り下げていきます。未来の医療技術に一石を投じる可能性を秘めたこの講義に、どうぞご期待ください!
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【本記事のもくじ】
Theme 1: Introduction
1-1 歴史とリソース
ディープラーニング技術の成り立ちは、脳の神経回路の研究から始まりました。今回の記事では、ディープラーニングの基礎となる歴史と重要な成り立ちを紹介します。
ディープラーニングの始まり:神経ネットワークの発見
ディープラーニングのルーツは、1940年代の神経ネットワークの研究に遡ります。当時、マカロックとピッツという科学者が、単純なコンピュータ要素(バイナリーニューロン)を組み合わせることで、脳のような論理的推論を行うことができると提唱しました。脳内での神経活動は、ニューロンがオンかオフの状態をとることで行われており、これがコンピュータ的な演算と似ていることから、この理論が発展していきました。
その後、心理学者のドナルド・ヘッブが提案した「ヘッブ則」が、ディープラーニングの基礎を支えました。この法則は、ニューロン同士が同時に活性化すると、その接続が強化され、学習が進むという考え方です。この理論は、人工ニューラルネットワークの発展にも大きな影響を与えました。
パーセプトロンとその限界
1950年代末に心理学者のフランク・ローゼンブラットが発明した「パーセプトロン」は、ディープラーニングの初期の重要なマイルストーンです。パーセプトロンは、線形分類機の一種であり、入力データからパターンを学習し、出力を予測するシステムです。しかし、1960年代末にマービン・ミンスキーとシーモア・パパートが著書『パーセプトロン』で、その限界を指摘し、単層ネットワークでは複雑な問題を解決できないことを明らかにしました。
神経ネットワーク研究の停滞と復活
1970年代には、パーセプトロンの限界が指摘されたことで、神経ネットワークの研究は一旦停滞しました。しかし、1980年代に入り、物理学者や他の研究者が再びニューラルネットワークに興味を持ち始め、特に多層ネットワーク(ディープネットワーク)を学習させる「バックプロパゲーション」という手法が注目されました。この手法により、複数の層を持つネットワークを効果的に訓練できるようになり、ディープラーニングの進展が始まりました。
ディープラーニングのブレイクスルー
2012年、アレックスネットというコンボリューションニューラルネットワーク(CNN)モデルが、画像認識のコンペティションで圧倒的な成績を収めたことで、ディープラーニングへの注目が急速に高まりました。これを機に、GPUを使った大規模な学習が可能となり、現在のディープラーニングブームが始まりました。
最新技術:自己教師あり学習
現在、ディープラーニングのホットなトピックの一つは「自己教師あり学習」です。これは、特定のタスクに対する教師データが少なくても、データそのものを理解することで学習する手法です。この技術は、自然言語処理や画像認識など、ラベル付きデータが少ない分野で革命を起こしています。
方法の紹介
- ヘッブ則: ニューロン同士が同時に活性化すると、その接続が強化されるメカニズム。
- パーセプトロン: 単層のニューラルネットワークで、線形分類に適しているが、複雑な問題には対応できない。
- バックプロパゲーション: 複数層を持つニューラルネットワークを効率的に学習させるアルゴリズム。
- 自己教師あり学習: タスクに依存せず、データを自己理解することで学習を進める手法。
結論・まとめ
ディープラーニングの歴史は、神経科学と心理学から生まれ、現代の技術革新によって飛躍的に進化しました。自己教師あり学習のような新技術は、AIの可能性をさらに広げ、これからの研究分野でも大きな影響を与えるでしょう。
感想
ディープラーニングの進化は、まさに私たちが目の当たりにしている技術革命の一つです。1940年代のシンプルな理論から、現在の複雑で強力なAIシステムに至るまで、その歩みは驚異的です。個人的には、単なる数学的な理論が、ここまで人間の生活や産業に影響を与える存在になるとは思ってもみませんでした。これから先、自己教師あり学習や人工知能がどこまで進化し、私たちの未来をどう変えていくのか想像すると、ワクワクせずにはいられません。
ぜひ、この分野に興味を持った方も、一緒に未来を考えながら学び続けてほしいです。
1-2 勾配降下法とバックプロパゲーションアルゴリズム
グラデントディセントとバックプロパゲーションアルゴリズムとは?
ディープラーニングの基礎として、グラデントディセント(勾配降下法)とバックプロパゲーションアルゴリズムは不可欠な技術です。これらは、ニューラルネットワークを最適化し、誤差を最小限に抑えつつ学習を進めるための手法です。
グラデントディセントとは?
グラデントディセントは、ニューラルネットワークのパラメータ(重みやバイアス)を調整し、誤差関数(損失関数)を最小化するための手法です。誤差関数の勾配を計算し、勾配の方向に逆らってパラメータを更新することで、誤差を減少させていきます。
例えば、山の頂上から谷底に向かって降りることをイメージしてください。勾配降下法は、山の斜面の角度を見ながら少しずつ谷底に向かって進む方法です。もし、誤差関数の勾配がゼロに近づけば、それは最適なパラメータに近づいていることを意味します。
バックプロパゲーションアルゴリズムとは?
バックプロパゲーション(誤差逆伝播)は、ニューラルネットワークの各層で発生した誤差を出力層から入力層に向かって伝播させる手法です。これにより、各パラメータがどの程度誤差に寄与しているかを計算し、その情報を使ってパラメータを更新します。
具体的には、出力と期待値(ターゲット)の差を損失関数で計算し、その結果を各ニューロンに逆伝播させることで、ニューラルネットワークの学習が進みます。これがグラデントディセントと組み合わさることで、最適な重みの更新が行われます。
具体的な手法
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順伝播(フォワードプロパゲーション)
ニューラルネットワークに入力データを与え、各層を通して予測を行う。 -
損失関数の計算
出力と実際のターゲットとの誤差を計算し、損失関数を算出する。一般的な損失関数には、MSE(平均二乗誤差)やクロスエントロピーが使われる。 -
バックプロパゲーション
損失関数の結果をもとに、出力層から入力層に向かって誤差を逆伝播し、各重みの勾配を計算する。 -
重みの更新
グラデントディセントの手法で計算された勾配を使い、パラメータを更新する。ステップサイズ(学習率)を調整しながら最適化を進める。
結論・まとめ
グラデントディセントとバックプロパゲーションは、ディープラーニングの中核をなす重要な手法です。これらを活用することで、モデルは誤差を最小化し、最適なパラメータを見つけることができます。特に、勾配を効率よく計算し、更新するプロセスが、モデルの学習速度や精度に大きく影響します。
感想
ディープラーニングの世界において、グラデントディセント(勾配降下法)とバックプロパゲーション(誤差逆伝播)は、まさに技術の要と言える存在です。これらがなければ、複雑なニューラルネットワークは、単なる数式の塊で終わってしまうでしょう。この2つのアルゴリズムが、モデルに知恵を与え、学習させ、現実世界の複雑な問題を解決する力を引き出しています。
個人的には、これらのアルゴリズムが持つ「自己改善」の仕組みは、私たち人間にも通じるものがあると思います。失敗を反省し、その経験を次のステップに活かすことで、より優れた自分を目指す。このアルゴリズムを理解することで、AIに対する敬意が一層深まりました。ディープラーニングの未来は、この基本的な手法の上に築かれていくと確信しています。
1-3 ニューラルネットの推論
回転とスクワッシングとは?
まず、ニューラルネットワークの構造を理解する上で重要なポイントは、ネットワークが「線形ブロック」と「非線形ブロック」から構成されているということです。
線形ブロックはデータの「回転」などの幾何学的変換を行い、非線形ブロックは「スクワッシング」(またはツイスト)と呼ばれるデータの非線形変換を行います。
- 回転(Rotation): データを高次元空間で回転させる変換。
- スクワッシング(Squashing): データを非線形に変形させる、データの「圧縮」を行う変換。
線形変換とアフィン変換
線形変換では、データポイントを回転させたり、スケーリング、反射、シアリングといった幾何学的変換が可能です。一方、アフィン変換では、これらに「平行移動」を加えた変換が行われます。
データの正規化
ニューラルネットワークが異なるスケールのデータに対しても適切に学習できるように、データを標準化する手法が使われます。
標準化では、データの平均をゼロにし、分散を1にすることで、ネットワークがデータのスケールに依存しないようにします。
ニューラルネットワークの働き
ニューラルネットワークは、「回転」と「スクワッシング」を繰り返してデータを変換します。このプロセスを通じて、ネットワークは入力データを変形し、最終的に分類や回帰といったタスクを達成するための「学習」を行います。
- 回転: データの幾何学的な再配置(例えば、画像や音声データを高次元空間で回転)。
- スクワッシング: 非線形変換により、データの特定の部分を「圧縮」または「曲げる」変換。
方法の紹介
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線形変換の実装:
- ニューラルネットワークの線形層(Linear Layer)を使ってデータを回転させる。
- 例として、2D空間のデータを2×2の行列で回転させる。
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非線形変換の実装:
- Rectified Linear Unit (ReLU) やシグモイド関数、ハイパボリックタンジェント関数などの非線形変換を用いる。
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ニューラルネットワークの構築:
- 回転(線形変換)とスクワッシング(非線形変換)を組み合わせたネットワークを構築し、データを適切に分類・変換する。
結論・まとめ
ニューラルネットワークは「回転」と「スクワッシング」という二つの基本的な変換を使ってデータを操作し、高次元空間での学習を行います。これらの変換により、データの複雑なパターンを学習し、分類や回帰などのタスクを実行可能にします。
次回の内容では、なぜ高次元空間でこれらの変換が有効であるかについてさらに深掘りし、具体的なトレーニング手法や学習の仕組みについて学びます。
感想
ニューラルネットワークの「回転」と「スクワッシング」という概念は、データの変換や処理の基本的なプロセスを理解する上でとても興味深い内容でした。**「回転」は線形変換によってデータの位置や角度を調整するような操作で、幾何学的な意味合いを持ち、データの形を整える段階で重要な役割を果たします。一方で、「スクワッシング」**は非線形変換を通じて、データを圧縮し、より複雑なパターンを捉えるための技術であり、これこそがニューラルネットワークの強みを最大限に引き出す鍵と言えます。
1-4 モジュールとアーキテクチャ
活性化関数の役割と種類
ニューラルネットワークの動作は、主に「線形変換」と「非線形変換」に依存しており、この非線形変換を担うのが活性化関数です。
活性化関数とは
活性化関数は、入力に対してある変換を施し、その出力が次の層に渡されます。最も一般的な活性化関数はReLU(Rectified Linear Unit)で、入力が0以上ならそのまま出力し、負の値の場合は0を返します。
- ReLU: シンプルかつ効率的。入力が正の時はそのまま出力し、負の時はゼロを返す。
- Leaky ReLU: ReLUの改良版で、負の値にもわずかな傾きを持たせることで、勾配消失問題を改善。
- Softplus: ReLUの「ソフト」なバージョンで、滑らかな遷移を持ち、導関数も計算しやすい。
- シグモイド: 古典的な活性化関数で、出力を0と1の間に正規化する。二値分類によく使われるが、勾配消失問題がある。
- ハイパボリックタンジェント: シグモイドと似ていますが、出力が-1から1の範囲に収まる。ニューラルネットの内部の変数を0に近い値に保つため、シグモイドよりも優れている場合がある。
- ソフトサイン: シグモイドやハイパボリックタンジェントと似ていますが、勾配消失問題が緩和されている。
ソフトマックス関数の応用
ソフトマックス(Softmax)関数とは
Softmaxは、多クラス分類に使われる代表的な関数です。入力ベクトルの値を指数関数的に変換し、その和で正規化することで、出力が0から1の範囲に収まり、合計が1となるため、確率分布として解釈されます。
- 使用例: 画像認識で、入力画像が複数のクラス(例: 犬、猫、鳥)のどれに属するかを分類する際、Softmaxは各クラスの確率を計算し、最も高い確率を持つクラスが予測されます。
コスト関数と最適化
コスト関数(または損失関数)は、ニューラルネットワークが予測を行う際に、実際の値と予測値の差を計算するために使われます。
- 平方誤差(Mean Squared Error, MSE): 回帰問題でよく使用される。
- 交差エントロピー損失(Cross Entropy Loss): 分類問題において、Softmaxの出力を用いて、正しいクラスの確率を最大化するために使われます。
勾配降下法(Gradient Descent)とそのバリエーション
ニューラルネットワークのトレーニングは、コスト関数の勾配を計算し、その勾配に従ってネットワークのパラメータを更新するプロセスです。
モジュールとアーキテクチャの構築
モジュールの組み合わせ
ニューラルネットワークは、異なるモジュール(層)を組み合わせて構築されます。これにより、複雑な非線形関数を学習できるようになります。
- 線形層: 入力に対して重み行列をかけて出力する層。
- 非線形層(ReLUなど): 入力に非線形変換を適用して出力する層。
注意メカニズム(Attention Mechanism)
Attentionは、入力データの特定の部分に焦点を当て、その情報を強調するメカニズムです。これにより、より効率的に重要な情報を学習できるようになります。特に自然言語処理(NLP)や画像認識で多用されます。
結論・まとめ
ニューラルネットワークは、さまざまな活性化関数やモジュールを組み合わせることで、データの複雑なパターンを捉え、分類や回帰タスクを効率的に解決します。また、Softmax関数や交差エントロピー損失を利用することで、多クラス分類タスクにおいて高精度な予測を行うことが可能です。
感想
感想として、ニューラルネットワークの各モジュールや活性化関数がどのように組み合わさって機能しているかを理解すると、その背後にある複雑なメカニズムに驚かされます。AIの成長とともに、これらの技術がどのように進化し、さらなる応用が広がっていくのか非常に楽しみです。皆さんもぜひ、自分なりの興味を持った部分を深掘りしてみてください!
1-5 ニューラルネットのトレーニング
ニューラルネットワークの基本概念と分類
ニューラルネットワークの分類とは
ニューラルネットワークを使った分類は、与えられた入力データ(例: 画像、テキスト、座標など)を元に、そのデータがどのクラスに属するかを予測するタスクです。例えば、2次元座標に基づいて、異なる色のスパイラルデータを分類する問題を考えます。
線形分類の限界
最初に試みる手法として、直線を用いた線形分類があります。これは、入力データに対して直線的な境界を引き、その境界でデータを分類する方法です。しかし、データが非線形に分布している場合、線形分類はうまく機能しません。例えば、スパイラル状のデータでは、各スパイラルが複雑に絡み合っており、線形境界では正確に分類できません。
ニューラルネットワークのトレーニング手順
トレーニングの5つのステップ
ニューラルネットワークのトレーニングには、次の5つのステップがあります。
-
フォワードパス
入力データをネットワークに通し、出力を得ます。これをフォワードプロパゲーションと呼びます。 -
損失の計算
得られた出力と正解ラベルの間の誤差を計算します。損失関数には、例えばクロスエントロピー損失が使われます。 -
勾配の初期化
PyTorchでは、勾配が蓄積されるため、トレーニングの前に勾配をゼロクリアします。 -
バックプロパゲーション
誤差に基づいて、ネットワーク内の各パラメータに対する勾配を計算します。これをバックプロパゲーションと呼びます。 -
パラメータの更新
計算された勾配を使用して、パラメータを更新します。通常、勾配降下法やAdamなどの最適化アルゴリズムを使って更新が行われます。
活性化関数と分類の精度
活性化関数とは
活性化関数は、各ニューロンが出力する値に非線形性を持たせるために使用されます。ReLU(Rectified Linear Unit)やハイパボリックタンジェント(tanh)などが一般的に使用されます。
- ReLU: 負の値をゼロにし、正の値はそのまま出力する。
- ハイパボリックタンジェント(tanh): 出力が-1から1の範囲に収まる活性化関数。
活性化関数が追加されることで、線形分類では対応できない複雑なパターンを学習できるようになります。実際、ReLUを導入した場合の分類精度は、線形分類の結果と比べて劇的に向上します。
PyTorchによる実装
モデルの定義とトレーニング
PyTorchでは、ニューラルネットワークモデルを簡単に定義し、トレーニングすることができます。以下はその手順です。
モデルの定義
ネットワークの層構造を定義します。例えば、入力層、隠れ層、出力層の順に接続するシンプルなモデルが使われます。
def __init__(self):
super(SimpleNN, self).__init__()
self.fc1 = nn.Linear(2, 100) # 2次元の入力を100次元にマッピング
self.fc2 = nn.Linear(100, 3) # 100次元を3次元にマッピング
def forward(self, x):
x = F.relu(self.fc1(x))
x = self.fc2(x)
return F.log_softmax(x, dim=1)
/
トレーニングループ
トレーニングの5つのステップを適用して、モデルをトレーニングします。
for epoch in range(num_epochs):
optimizer.zero_grad() # ステップ3: 勾配を初期化
output = model(input_data) # ステップ1: フォワードパス
loss = criterion(output, labels) # ステップ2: 損失の計算
loss.backward() # ステップ4: バックプロパゲーション
optimizer.step() # ステップ5: パラメータの更新
結論・まとめ
ニューラルネットワークのトレーニングプロセスは、フォワードプロパゲーション、損失計算、勾配の計算、パラメータの更新のステップで構成されます。PyTorchを使えば、これらのステップを効率的に実行でき、複雑な分類問題にも対応可能です。また、非線形の活性化関数を導入することで、線形分類では解決できない問題にも対応できるようになります。
感想
今回の講義は、ニューラルネットワークの基礎から実践的なトレーニング方法まで、非常に詳しく説明されており、特にPyTorchを用いた実装部分がわかりやすく、実践に役立ちます。ニューラルネットワークの強みである非線形性を活用した学習方法を理解することで、より複雑な問題にもチャレンジできるようになるでしょう。皆さんもぜひ、自分でコードを書いて試し、深い理解を得てください!
というわけで、今回は以上です。大変お疲れ様でした。
引き続きで、徐々に発信していきます。
コメントや感想を受け付けています。ちょっとした感想でもいいので嬉しいです。
それでは、以上です。