生成AIが「一人で全部こなす時代」は、もう終わりを迎えようとしています。

むしろ今、AIの世界では「チームで動くこと」の重要性が急速に認識され始めています。

その代表的な事例が、LLMをマルチエージェント化して活用する新たなアプローチです。

たとえば、複雑な業務手順を自動で組み立てる“ワークフロー生成”という課題において──

単独の先端LLMモデルでは成功率が20%未満だったのに対し、
3つの役割に分担させた「チーム型のLLM」では、成功率が50%以上にまで上昇したという衝撃的なデータがあります。

なぜ、たったそれだけの工夫で精度が倍以上も変わるのか?

本記事では、
人間のチームワークと同様、LLMも“分担”することで劇的にパフォーマンスを向上させられる理由と、
その仕組みを実現するための技術・ツール・最新研究について、わかりやすく解説します。

https://doi.org/10.48550/arXiv.2503.22473


目次

🧩 なぜ単独のLLMでは限界があるのか?

私たちが日常の仕事で「段取りを組む」ように、AIにも作業の流れ=ワークフローを理解させる必要があります。

たとえば、

  • 「9時に取引先に定型メールを送信」

  • 「届いたデータを分析してグラフにする」

  • 「その結果をレポート化して保存」

といった一連の作業は、れっきとしたワークフローです。

最近のLLMは、こうした一連の指示を自然言語で与えるだけで、自動的にワークフローを構築できるほど進化しています。

しかし問題はここからです。

AIに「すべてを任せる」となると、
そのLLMが一人で検索・要約・構造化・意図の理解・手順の分解といった多岐にわたるタスクを担うことになります。

すると当然、
作業の細部でミスが生まれやすくなり、精度も下がってしまうのです。

このような課題の突破口として登場したのが、「役割分担されたLLMたちの連携」です。


🛠 LLMたちを“チーム化”するマルチエージェントとは?

マルチエージェント型のLLMとは、簡単に言えば「それぞれが得意な仕事を担うAIの集団」です。

たとえば以下のような構成を考えてみましょう:

  • 指示理解エージェント:ユーザーの意図を把握し、目的を明確にする

  • 情報収集エージェント:必要な情報を検索・収集する(RAG含む)

  • 構造化エージェント:最適な手順やワークフローを設計・出力する

これらのAIがバトンリレーのようにタスクを分担しながら連携することで、
「精度が高く・抜け漏れのない・実行可能なフロー」を出力できるようになります。

実際の研究では、
この方式を用いた結果、ワークフロー生成の成功率が2倍以上に上昇したという成果が報告されています。


🔍 関連する先端研究・事例の紹介

本テーマに関連する具体的な研究としては、以下の2つが特に注目されています。

① FlowMind(JPモルガン)

自然言語から業務自動化フローを生成するシステム。
金融領域の複雑な業務を、プロンプト一発で自動化できるよう設計されており、
マルチステップ処理に特化したLLMの活用事例として知られています。

② Retriever × LLMによる実用的RAG構成

小型のRetrieverとLLMを組み合わせ、正確な情報取得+精密なワークフロー出力を実現。
これにより、幻覚(hallucination)を減らし、信頼性の高いアウトプットを生成できるようになります。


💡 どうやって自分の業務に取り入れるか?

実際にこのような仕組みを業務に導入するには、以下のツールが非常に有効です:

  • Dify:複数のエージェントをビジュアルに構成可能なLLMフレームワーク

  • LangGraph:LLM間のやり取りをグラフ構造で定義し、条件分岐も含めたフロー構築が可能

  • Claudeのアーティファクト機能:JSONなど構造化された出力を視覚的に整理できるツールとして活用可能

特に、業務マニュアルや会話ログ、アイデアメモなどをもとに、
自然言語→ワークフロー→自動化という一連のプロセスをLLMで構築しておくことで、
日々のルーティン業務が驚くほどスムーズになります。


✅ JSON形式によるワークフロー生成とは?

生成されたワークフローは通常、**JSON(JavaScript Object Notation)**形式で出力されます。

これは人間には少し読みにくいですが、機械処理に最適化されたデータ構造です。

必要に応じて、以下のような方法で可視化すると、より直感的に理解できます。

  • Python+Graphvizでフローチャート化

  • Mermaid.jsなどでWeb上に視覚化

  • Claudeなどの可視化対応AIでアウトプットを整理

この「自然言語 → JSON → 可視化されたワークフロー」という流れこそ、
これからの業務設計において欠かせない“新しい武器”となるでしょう。

🧩 1人のLLMより、3人のスペシャリストLLM

人間の仕事の現場を想像してみてください。

リーダーが全体を監督し、
調査担当が資料を収集し、
ドキュメント作成担当がレポートをまとめる。

そんな分業スタイルこそ、実はAIにも求められているのです。

たとえば以下のような役割を持つLLMたちが、1つのプロジェクトを共に進めていく──

  • 📘計画立案エージェント:ユーザーの指示を読み解き、タスクを構造化

  • 🧮構成設計エージェント:実行に必要な部品(コンポーネント)を選定し、手順化

  • 🛠️詳細設定エージェント:各部品に必要なパラメータを埋め、完成品に仕上げる

これが、マルチエージェントによる自然言語ワークフロー生成の本質です。


🏗️ 「自然言語→ワークフロー」を実現するシステム設計

研究者たちが提案した最新モデルでは、
以下の3つのエージェントが役割分担された構成で連携します:

  • スーパーバイザー(Supervisor)

  • オーケストレーター(Orchestrator)

  • フィラー(Filler)

この3つが連携し、ユーザーが自然言語で入力した命令文を、
JSON形式のワークフローとして出力します。

それぞれのエージェントは、まさに“仕事のプロ”のように、以下のような特化した動きをします。


🧠 スーパーバイザーの役割|チームの司令塔

スーパーバイザーは、全体の“監督役”です。
主な仕事は以下の2つ:

  1. ユーザーの意図を解析し、適切な作業計画を立てる

  2. 出力の正しさを確認し、必要があれば再実行させる

つまり、ユーザーの言葉を「計画」に落とし込み、
必要に応じてオーケストレーターやフィラーを呼び出す役割を担っています。

また、エージェントたちの出力結果に誤りがあれば、繰り返し修正を依頼することも可能。
これにより、システム全体が自己修正型の構造となっており、失敗のリカバリーも自動で行えます。


🧩 オーケストレーターの役割|作業の骨格を設計する職人

オーケストレーターの役割は、ユーザーの指示をもとに、

  • 適切な処理モジュール(=コンポーネント)を選定し

  • それらを正しい順序で並べる

という、ワークフローの大枠を構築することです。

このとき使われる技術が「SentenceBERT」。
自然言語をベクトル(数値)に変換し、ユーザーの指示とコンポーネント説明文の類似度を計算します。

その後、LLMを用いて、どの順序で処理を並べれば最適な流れになるかを決定します。

オーケストレーターは“構成設計”のエキスパートであり、システムの設計図を描く存在です。


🔧 フィラーの役割|設定値を埋める職人

フィラーの仕事は、オーケストレーターが作った「骨格ワークフロー」に対して、
具体的なパラメータ(設定値)を埋めて完成させることです。

その流れは2段階構成です。

  1. 各コンポーネントに必要なテンプレート(項目の雛形)を取得する

  2. ユーザーの文脈から、実際の値を抽出してテンプレートに入力する

たとえば「◯◯さんに毎朝9時にSlackで挨拶を送る」という指示があれば、
「宛先」「時刻」「メッセージ本文」などを抽出し、正確に埋め込みます。

フィラーはいわば「現場で手を動かす実務担当」。
細部を整えることで、実行可能なワークフローを仕上げていくのです。


🧪 エージェントたちの動きはJSONで制御される

この3人のAIスペシャリストたちは、
全員がJSON形式で命令や結果をやり取りしています。

それぞれのエージェントは「自身の役割だけを遂行し、他の領域には立ち入らない」ように制御されており、
明確な責務分離が実現されています。

たとえば、スーパーバイザーの出力形式は常にこのような形になります:

{
  "analysis": "ユーザーの意図はワークフローの生成であると判断。",
  "action": ""
}

このように、明快かつトラブルの少ない形でエージェントが連携する構造こそ、
この仕組みの大きな強みです。

🤝 各エージェントの「協働」が生み出す高精度なワークフロー

ここまで紹介してきたとおり、
「スーパーバイザー」「オーケストレーター」「フィラー」という3つの専門エージェントが、
それぞれの役割に集中しながら連携することで、自然言語からのワークフロー生成が可能になります。

では、この仕組みは実際にどれほどの効果を生むのでしょうか?

以下では、実験データに基づくパフォーマンスの検証結果を詳しく紹介します。


🧪 各エージェントが連携した処理の全体像

エージェントたちは、以下のようなフローで連携して動作します:

  1. スーパーバイザーがユーザーの指示を受け取り、タスクの計画を立案

  2. オーケストレーターを呼び出し、コンポーネントを選定・並列

  3. フィラーを呼び出し、詳細な設定値を入力

  4. スーパーバイザーが結果を確認し、問題があれば再実行

この流れにより、自然言語で曖昧だったタスクが、実行可能な構造化ワークフローへと変換されていきます。


📊 実験デザインと評価方法|約3,700件の業務シナリオで検証

研究チームは、実用性の高い評価のために**オリジナルのデータセット(HW-NL2Workflow)**を作成しました。

このデータセットには、

  • 📩「特定の条件でメールを処理する」

  • 📆「定期的にシステム監視を行う」

  • 📊「外部APIと連携しレポートを作成する」

といった、現実の業務に即した自然言語の指示文と正解ワークフローが含まれています。

使用データ数

  • 全体:約3,700件

評価指標は以下の3つ:

  • 完全一致率(EMR):ワークフローが100%一致した比率

  • 順序の正確性(AA):作業順が正しいかの精度

  • パラメータ正確性(PA):設定値が正しく埋まっているか


🧠 評価結果:WorkTeamが大幅に精度を上回る

📉 単独LLMの限界

  • GPT-4o(最高性能):EMR=約20%

  • LLaMA3など小規模モデル:EMRはさらに低下

  • RAG構成でも改善は限定的:EMR=24%

この結果からも、LLM単体では複雑なワークフローの構築は困難であることが明らかです。

🚀 提案モデル「WorkTeam」の成果

  • 完全一致率(EMR)約53%

  • 順序の正確性(AA)約89%

  • パラメータの正確性(PA)約73%

驚くべきことに、WorkTeamでは精度が倍以上に跳ね上がっています。

これは、各エージェントの専門性と役割分担によって、精度が飛躍的に改善した証拠です。


🧩 各エージェントの重要性を分解して検証

さらに興味深いのは、それぞれのエージェントがどれほどパフォーマンスに貢献しているかを分析した追加実験です。

結果は以下の通り:

✅ オーケストレーター/フィラーの欠如

  • ワークフロー生成自体が不可能
    → 両者は必須構成要素であると確認されました。

⚠️ スーパーバイザーの欠如

  • 生成は可能だが、精度が明確に低下
    → スーパーバイザーが「監督・再実行の管理役」として不可欠であることが証明されました。

つまり、3者が協力するこの構成こそが、高精度・高信頼のワークフロー構築に必要不可欠なアーキテクチャなのです。


✅ まとめ|分業・協働のLLMが実用フェーズへ

今回紹介した「WorkTeam」は、
単なる構想や理論ではなく、実際の業務フロー構築に使えるレベルの精度を実現しています。

  • 👨‍💻 LLMは万能ではない。だからこそ、役割分担が必要

  • 🔁 スーパーバイザーによる監督と再実行の設計が成功のカギ

  • 📈 マルチエージェントの連携で精度が倍以上に向上

自然言語からワークフローを作る、という「一見難しそうな自動化タスク」が、
ここまで精緻に実行できることは、多くの業務現場にとって革命的な変化をもたらすでしょう。


✍️ 感想・実務への応用はどう考える?

あなたの業務にも、「同じことを繰り返している」「毎回手順をメモしている」ような場面がありませんか?

この研究成果を応用すれば、そうした日々のルーティンが自動で構造化され、再利用可能な形に変わるかもしれません。

DifyやLangGraphなどのマルチエージェント構築ツールを使えば、すぐにでも試作可能です。

ぜひこの新しいAIの使い方を、あなたの現場にも取り入れてみてください
驚くほど仕事が整い、効率化が加速します。🚀

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