こんにちは、ヤク学長です。
本日は、ニューヨーク大学のデータサイエンスセンターで2021年春に開講された、Yann LeCun教授とAlfredo Canziani教授による「ディープラーニング」の講義に焦点を当ててみたいと思います。
この講義はZoomを通じて週に一度、実践的なセッションも含めて提供され、その全ての教材がGitHubリポジトリで公開されています。講義内容は、基本的なニューラルネットワークの訓練から始まり、最先端のエネルギーベースモデルやグラフ変換ネットワーク、自己符号化器やGANsまで、幅広いテーマを網羅しています。
今回は、これらの講義が私たちの業界、特に医療と薬学にどのように応用可能か、具体的な事例を交えながら掘り下げていきます。未来の医療技術に一石を投じる可能性を秘めたこの講義に、どうぞご期待ください!
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【本記事のもくじ】
- 1 Theme 4:エネルギーベースモデルの応用
- 1.1 4-1 エネルギーベースモデル (III)
- 1.2 4-2 自己教師あり学習とオートエンコーダー
- 1.3 方法の紹介
- 1.4 4-3 エネルギーベースモデル (VI)
- 1.5 4-4 LV-EBMからターゲットプロップ、オートエンコーダーまで
- 1.6 方法の紹介
- 1.7 4-5 エネルギーベースモデル (V)
- 1.8 4-6 PyTorchとGANを用いたAEs
- 1.9 4-6-1. Contrastive Learningと自己教師あり学習(SSL)の概要
- 1.10 4-6-2. Contrastive Learningの原理とJEMの構造
- 1.11 4-6-3. Contrastive Loss(対比損失)の計算方法
- 1.12 4-6-4. JEMの強みと問題点
- 1.13 4-6-5. Contrastive Learningの改善策
- 1.14 4-6-6. 他の手法との比較
- 1.15 4-7 ジョイント埋め込み法 (II)
- 1.16 4-7-1. Non-Contrastive Learningの概要
- 1.17 4-7-2. 非対照学習の利点とトリビアル解の回避方法
- 1.18 4-7-3. 非対照学習の主要手法
- 1.19 4-7-4. データ拡張とネットワークアーキテクチャの重要性
- 1.20 4-8 自己教師あり学習(SSL)とジョイントエンベディング法(JEMs)について
Theme 4:エネルギーベースモデルの応用
4-1 エネルギーベースモデル (III)
エネルギーベースモデルとは
エネルギーベースモデル(EBM)は、エネルギーを使ってデータの分布や相関を表現し、学習や推論に用いる手法です。入力データに対する出力や予測を行う際、低エネルギー領域を探索し、エネルギーを最小化するように学習を進めます。エネルギーベースモデルは、教師あり・教師なし学習の両方で使われ、特に自己教師あり学習での利用が広がっています。
主な手法の説明
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PCA(主成分分析)
PCAはデータの次元を削減し、その中で最も重要な情報を保持する手法です。エネルギーベースのモデルにおいては、低次元の空間でデータを再現することにより、エネルギーを最小化します。これにより、データの重要な部分を効率よく抽出できます。 -
K-means
K-meansは、データを指定されたクラスター数に分割し、各クラスターの中心に向かうようにデータを集約するアルゴリズムです。エネルギーベースモデルの観点からは、各クラスターの中心にデータを近づけ、そのエネルギーを最小化する方法といえます。 -
ガウス混合モデル(GMM)
GMMは、複数のガウス分布を用いてデータをモデル化する手法です。各ガウス分布の混合比率を調整しながら、データの特徴を表現します。エネルギーを最小化するために、ガウス分布のパラメータ(平均と共分散行列)を最適化します。 -
Sparse Coding(スパースコーディング)
Sparse Codingは、データを少数の基底ベクトルの線形結合で表現する手法です。エネルギーベースモデルでは、スパース性を促進するためにL1正則化を用い、できるだけ少ない要素でデータを表現することにより、エネルギーを最小化します。 -
直感的なVAE(変分オートエンコーダ)
VAEは、データの潜在変数を確率的にモデル化し、ガウス分布を使ってデータを生成します。エネルギーベースモデルでは、データの再構成誤差と潜在変数の正則化項を最小化することが目標です。これにより、データの潜在構造を学習します。
方法の紹介
エネルギーベースモデルを使って効果的な自己教師あり学習を行うためには、以下の手順を取ることが重要です。
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データの前処理
データの正規化や次元削減を行い、モデルが効率的に学習できるように準備します。 -
エネルギー関数の定義
予測に使用するエネルギー関数を設計し、データに適した形でエネルギーを最小化します。例として、再構成誤差や正則化項をエネルギーに組み込みます。 -
モデルの学習
勾配降下法や確率的勾配降下法を使って、エネルギーを最小化するための最適なパラメータを見つけます。 -
潜在変数の推論
VAEやスパースコーディングなどの手法では、潜在変数を推論するためのアルゴリズム(例えば、サンプリングや最小化アルゴリズム)を使用します。
結論
エネルギーベースモデルは、データの分布や構造を捉える強力な手法です。PCAやK-means、GMM、スパースコーディング、VAEなど、多様なアルゴリズムが存在し、それぞれの特徴に応じて使い分けることが求められます。エネルギーを効果的に最小化することで、より高精度なデータ解析や予測が可能となります。
感想
エネルギーベースモデルは、深層学習や機械学習において重要な位置を占めており、その応用範囲は広がっています。特に自己教師あり学習において、エネルギー最小化を通じてデータの本質を捉える手法は、今後もますます注目されることでしょう。
4-2 自己教師あり学習とオートエンコーダー
ジェネレーティブモデルとは?
ジェネレーティブモデルは、データを生成するためのモデルです。特に、画像生成に関するジェネレーティブモデルは、現実世界に存在するように見える画像を生成する能力を持っています。近年、特に顔の画像生成や物体の生成などで注目を集めています。
インターポレーションと生成結果
画像間のインターポレーション(間を埋める操作)をピクセル単位で行うと、画像の一部が重なって不自然な結果になることがありますが、隠れ層(内部表現)でインターポレーションを行うと、より自然な変化が生じます。たとえば、犬の画像から鳥に変化させるような中間的な画像も生成可能です。
条件付きジェネレーティブモデル
特定の条件に基づいて画像を生成する「条件付きジェネレーティブモデル」も存在します。例えば、テキストに基づいて特定の形状や色、明るさの変化を行い、画像を生成します。これにより、時間帯や視点の変化なども学習可能となり、例えば、昼間の風景を夜の風景に変換することができるのです。
オートエンコーダの役割
オートエンコーダは、入力されたデータの重要な特徴を抽出し、それをコンパクトな隠れ層(潜在変数)に変換することで、元のデータを復元するモデルです。この際、次元削減やノイズ除去といった用途で使用されますが、目的はデータの内部構造を学習し、データの再構成がどれだけ正確にできるかを評価します。
ノイズ除去オートエンコーダ
ノイズ除去オートエンコーダは、入力データにノイズを加え、元のデータを再構成することを目的としています。このプロセスにより、データのノイズに対するロバストな内部表現を学習します。ノイズの入ったデータを入力しても、元のデータに近いものを再構成するように訓練されます。
方法の紹介
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ジェネレーティブモデルの学習
GAN(生成敵対ネットワーク)やVAE(変分オートエンコーダ)を使用して、顔や物体などの画像を生成します。VAEは、画像の潜在変数にランダム性を加え、その変数を基に画像を生成します。 -
ノイズ除去オートエンコーダの訓練
まず、元の画像にノイズを加え、ノイズの入った画像をエンコーダに入力します。そして、デコーダがノイズのない元の画像を再構成するようにモデルを訓練します。これにより、モデルはノイズの影響を最小限に抑える学習が可能になります。 -
条件付き生成
テキストや他の入力条件を与え、その条件に基づいた画像生成を行います。たとえば、テキストに「アボカドの形をした椅子」と指示すると、モデルはその指示に従った画像を生成します。
結論
ジェネレーティブモデルは、非常に複雑なデータ構造を学習し、新たなデータを生成する強力なツールです。特に、顔の生成や画像の補完などのタスクで高い効果を発揮します。これらのモデルは、データの内部表現を深く学習し、再構成やノイズ除去、条件に基づく生成など、多様なタスクに応用できます。
感想
ジェネレーティブモデルがここまで進化していることは本当に驚くべきことです。特に、テキストに基づいて画像を生成する技術や、条件付きでの生成が可能になった点は、今後の応用範囲を大きく広げる可能性を秘めています。
4-3 エネルギーベースモデル (VI)
GANの復習
- GAN(Generative Adversarial Networks): 生成モデルと識別モデル(批評家とも呼ばれる)から成り、生成したデータがどれだけ実際のデータに似ているかを判定します。識別モデルはデータのエネルギーを押し下げ、生成モデルは識別モデルを騙そうとします。GANは「ゲーム理論」に基づくナッシュ均衡を目指しており、複雑な学習プロセスを持っています。
自己教師あり学習の重要性
- 自己教師あり学習は、データのラベルが少ない場合に有用で、特に医療画像や希少なオブジェクト認識などに応用されます。人間や動物が素早く効率的に学習するように、機械もモデルを観察や予測から学び、将来の動作を予測する力を高めます。
- ビデオの予測: 映像の一部から将来の動作を予測する際、複数の可能性が存在するため、システムが単一の予測ではなく複数の選択肢を持つ必要があります。
エネルギーベースモデルと自己教師あり学習
- エネルギーベースモデルは、現実的なデータと非現実的なデータを区別するために用いられます。ビデオの一部を観察し、次に何が起こるかを予測することが可能です。
スパースモデリングと変分オートエンコーダ(VAE)
- スパースモデリング: Z(潜在変数)の容量を制限し、スパース性(少数の非ゼロ要素)を持つ表現を学習します。ISTA(反復収縮しきい値アルゴリズム)などの技法を用いて、効率的にZを推定します。
- VAE(Variational Autoencoder): Zの最適化ではなく、Zを分布に基づいてサンプリングし、デコーダに入力します。Zの容量は正則化され、潜在変数の情報量を抑える効果があります。
結論
自己教師あり学習は、ラベルが不足しているデータセットで有用です。また、VAEはZの容量を調整し、学習の正確性を向上させる効果があります。これらの技術は、AIが現実世界をより深く理解し、複雑なタスクを効率的に学ぶための基盤を提供します。
感想や質問があれば、ぜひお聞かせください。
4-4 LV-EBMからターゲットプロップ、オートエンコーダーまで
エネルギーベースのモデルからの進化
本講義はエネルギーベースモデル(LV-EBM)を基盤に、ターゲットプロパゲーションや様々なオートエンコーダへのステップを解説しています。特に、「標準的なオートエンコーダ」、「デノイジングオートエンコーダ」、「コントラクティブオートエンコーダ」、「変分オートエンコーダ(VAE)」の各手法の違いを詳しく述べています。
エネルギーベースモデル(EBM)とは、観測データとその背後にある潜在変数とのエネルギー(損失関数)を最小化することを目的としたモデルです。オートエンコーダは、観測データを潜在変数(潜在空間)に変換し、再構成して元のデータに戻すプロセスを通じて、このエネルギーを最小化します。
各オートエンコーダの概要
標準的なオートエンコーダ
- エンコーダとデコーダの2つのネットワークがあり、エンコーダは入力データを潜在空間に変換し、デコーダは潜在空間から入力を再構成します。
- 損失関数は再構成誤差に基づいています。
- 圧縮目的だけではなく、特徴表現を学習するために使われることが多い。
デノイジングオートエンコーダ
- ノイズを含むデータを入力し、元のクリーンなデータを再構成することを目的としています。
- この手法は、入力データがノイズに耐性を持つようなロバストな表現を学習するためのものです。
コントラクティブオートエンコーダ
- 入力に対する潜在表現の変動を抑えることを目的としています。
- 潜在空間の感度を減らすことで、過学習を防ぎ、より一般的な表現を学習します。
- 正則化項を追加し、入力の微小な変動に対して潜在表現が大きく変動しないように調整します。
変分オートエンコーダ(VAE)
- オートエンコーダの生成モデルとして知られ、観測データから確率分布に基づく潜在変数をサンプリングします。
- 潜在空間の分布が標準正規分布に近づくようにKLダイバージェンスを用いて正則化します。
- サンプリングによる生成が可能で、新しいデータを生成するために使われます。
方法の紹介
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標準的なオートエンコーダは、再構成誤差を最小化することで学習します。エンコーダはデータを低次元に圧縮し、デコーダはその圧縮されたデータをもとに入力データを復元します。
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デノイジングオートエンコーダは、入力にノイズを加え、そのノイズを除去したクリーンな出力を学習します。この方法では、入力データに対してノイズのあるバージョンを作成し、それをもとに元のデータを再現するようにモデルを訓練します。
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コントラクティブオートエンコーダでは、正則化項を加え、潜在表現が入力の小さな変動に対して過剰に反応しないように調整します。これにより、モデルの安定性が向上します。
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変分オートエンコーダ(VAE)は、観測データから潜在変数をサンプリングし、そのサンプルからデータを再構成します。また、潜在空間の分布が正規分布に従うように正則化されているため、新しいデータの生成が可能です。
結論
今回の講義では、様々なオートエンコーダについて詳しく学びました。特に、各オートエンコーダがどのような目的で使用されるか、それぞれがどのようにデータの表現を学習するかについて深く掘り下げました。
- 標準的なオートエンコーダは、再構成誤差を最小化するモデル。
- デノイジングオートエンコーダは、ノイズ除去によってデータのロバストな表現を学習。
- コントラクティブオートエンコーダは、入力の微小な変化に対して安定した潜在表現を学習。
- 変分オートエンコーダ(VAE)は、生成モデルとして新しいデータをサンプリング可能。
感想
この記事を読んで、どのオートエンコーダが最も興味深かったですか?また、どのような応用が可能かについて考えてみてください。感想やコメントをぜひお寄せください。
4-5 エネルギーベースモデル (V)
深層学習とメモリーシステム
- 現代の深層学習システムは、物事を「覚える」ための構造や知識を蓄積し、そこから推論を行うための新しいアーキテクチャに進化しています。特にトランスフォーマーモデルは、この分野で大きな進展を遂げており、多くの応用が進んでいます。今後の課題として、記憶や推論、計画立案を行う能力をいかにして強化するかが重要です。
トランスフォーマーとシステム1・2の思考
- 人間の思考には「システム1」(反射的・直感的な思考)と「システム2」(計画的・論理的な思考)の二つのタイプがあります。現在のAIシステムは主にシステム1型の思考に依存しており、システム2型の論理的思考を行うための技術が未解決の課題として存在しています。
記憶を活用した推論
- AIシステムが「作業メモリ」を使用して複雑な推論を行うことは、今後の研究の重要なテーマです。物理的な知識や他者の行動をモデル化し、それを用いて計画や推論を行うためには、長期的な記憶と作業メモリの両方が不可欠です。
エネルギー最小化による推論
- AIにおける推論はエネルギー最小化問題として解釈できます。これは、特定の事象に対するエネルギー値を計算し、それを最小化することで、最適な推論や解答を導くという手法です。この考え方は、トランスフォーマーやエネルギーモデルにおける推論の基盤となっています。
方法の紹介
トランスフォーマーのアーキテクチャ
- トランスフォーマーは、クエリ(query)、キー(key)、バリュー(value)の三要素を用いた「アテンションメカニズム」でデータの相互関係を学習します。特に自己注意機構により、文脈内の重要な要素に「注意」を払うことが可能で、翻訳やテキスト生成などで飛躍的な進化を遂げました。
エネルギー最小化モデル
- グラフモデルや因子グラフを用いたエネルギー最小化の推論手法により、AIは不確実性を伴う状況でも最も可能性の高い結果を推測します。例として、地震や交通事故の発生可能性をエネルギー値で推定し、その結果に基づいた推論を行います。
結論
深層学習と推論における最大の課題は、より高度な記憶と推論システムの構築です。トランスフォーマーはこれを解決する鍵となるアーキテクチャの一つであり、今後の進化が期待されます。また、エネルギー最小化による推論モデルが、より複雑な問題解決に役立つことが明らかになっています。
感想
この記事を読んで、深層学習と推論の未来にどのような期待を感じたでしょうか?トランスフォーマーの応用やエネルギーモデルについて、さらなる探究心が刺激された方はぜひコメントをお寄せください。
4-6 PyTorchとGANを用いたAEs
動画の内容は、PyTorchを用いたAE(Autoencoder)、DAE(Denoising Autoencoder)、VAE(Variational Autoencoder)についての解説と、最後にGAN(Generative Adversarial Networks、生成的敵対ネットワーク)についての説明が中心です。
講師は非常にエネルギッシュで、AEやGANの概念を詳しく説明しています。まず、AEでは入力データを圧縮し、それを再構築する仕組みを示しています。DAEはその派生として、ノイズを追加したデータを元の形に復元することを目指すもので、入力データに追加されたノイズを無視し、データの重要な部分を再現する手法が説明されています。
その後、VAEでは通常のAEと異なり、確率的なアプローチを取り入れ、生成モデルとしての機能を持たせています。VAEは隠れ層を持ち、データを潜在空間にマッピングする際に、平均と分散の情報を用いてサンプルを生成します。
最後にGANについても取り上げられています。GANでは、ジェネレータとディスクリミネータの2つのネットワークが競い合いながら訓練され、ジェネレータはディスクリミネータを欺くような偽のデータを生成します。これは、偽データを「本物」として判別させるための非常に効果的な手法です。
総じて、AEやGANの基本的な概念と、その実装方法について細かく説明された講義です。
ジョイント埋め込み法 (I)
4-6-1. Contrastive Learningと自己教師あり学習(SSL)の概要
Contrastive Joint Embedding Methods(JEMs)は、自己教師あり学習(SSL)の中でも特に注目されている手法の一つです。自己教師あり学習は、ラベルのないデータを活用してモデルを訓練し、有用な表現を学習するための手法です。JEMsでは、Contrastive Learning(対比学習)というアプローチを取り、データポイント間の類似度を基にした学習が行われます。
Contrastive Learningでは、**正のペア(似ているデータ)と負のペア(異なるデータ)**を扱い、正のペアの距離を縮め、負のペアの距離を広げることが目的です。このようにして、類似したデータの表現を近づけ、異なるデータの表現を区別する表現空間を構築します。
4-6-2. Contrastive Learningの原理とJEMの構造
JEMは、自己教師あり学習において「生成モデル」や「事前タスク」を超えるパフォーマンスを発揮します。JEMは主に以下の2つの要素から成り立っています。
- 正のペアを近づける: 同じ画像やビデオなどから作られた「データのペア」を用いて、それらの表現が近くなるように学習します。
- 負のペアを遠ざける: 異なるデータ間の距離を広げ、表現の分散性を保ちます。これは「トリビアル解」を防ぐために重要です。トリビアル解とは、すべてのデータが同じ出力を持つ状態を指し、それは学習の失敗を意味します。
4-6-3. Contrastive Loss(対比損失)の計算方法
Contrastive Learningでは、InfoNCE損失という損失関数がよく使用されます。この損失は、データペア間の類似度(コサイン類似度など)に基づいて計算されます。
損失関数の基本的な形は以下のようです。
ここで、sim(h_x, h_y) はデータポイント間の類似度、τ は温度ハイパーパラメータです。この損失関数の目的は、正のペアの類似度を最大化し、負のペアの類似度を最小化することです。バッチサイズを増やすことで、より多くの「負のサンプル」を利用できるため、学習が効果的に進行します。
4-6-4. JEMの強みと問題点
強み
- 高いパフォーマンス: JEMを用いると、特に画像分類タスクで高い精度を達成できます。ImageNetのような大規模データセットでの結果は、教師あり学習に匹敵することが多いです。
- ラベルなしデータの利用: ラベルのない大量のデータを活用することができ、データラベリングのコストを削減できます。
問題点
- バッチサイズ依存: 大規模なバッチサイズが必要になるため、計算コストが高く、メモリの消費が増加します。
- 負のサンプル選択の難しさ: 良い負のサンプルを見つけることが難しく、適切な負のサンプルがなければ効果的な学習ができません。
4-6-5. Contrastive Learningの改善策
JEMの効果を最大化するためには、**MoCo(Momentum Contrast)**のような工夫が重要です。MoCoは、メモリバンクを使用して過去のデータを蓄積し、負のサンプルのバリエーションを増やします。また、バックボーンネットワークの更新を遅くすることで、古いサンプルが依然として有効であることを保証します。この工夫により、バッチサイズを抑えつつ、効果的な学習を可能にします。
4-6-6. 他の手法との比較
JEMは、従来の自己教師あり学習手法である「生成モデル」や「事前タスク」を超えて広く採用されています。これらの古い手法には、デコーダの訓練が難しい(生成モデル)や、タスク設計が困難である(事前タスク)という問題がありました。これに対して、JEMはシンプルで強力なアプローチで、特に画像やビデオデータに対して優れた性能を発揮します。
結論
Contrastive Joint Embedding Methods(JEMs)は、自己教師あり学習において非常に効果的な手法です。特に大規模な画像分類タスクでその真価を発揮し、従来の生成モデルや事前タスクを凌駕しています。MoCoのような改良によって、バッチサイズ問題や負のサンプル選択の課題も解決されつつあり、今後さらに広く利用される可能性があります。
感想
Contrastive Learningの発展は、AIにおける自己教師あり学習の新たな道を開きました。読者の皆さんも、ぜひこれらの技術を自身のプロジェクトに取り入れてみてください。質問やコメントがあれば、気軽にお聞きください!
4-7 ジョイント埋め込み法 (II)
4-7-1. Non-Contrastive Learningの概要
非対照学習(Non-contrastive Learning)は、従来のContrastive Learning(対比学習)と異なり、負のサンプルを必要とせず、表現空間内でトリビアル解(すべてのデータが同じ出力を持つ状態)を避けながら、自己教師あり学習(SSL)を行う手法です。Contrastive Learningでは、正のペアを近づけ、負のペアを引き離すことで学習を行いますが、これには多くの計算リソースとバッチサイズが必要でした。それに対して、非対照学習では、データ間の関連性を保持しつつ、負のサンプルを使わない効率的な学習が可能です。
4-7-2. 非対照学習の利点とトリビアル解の回避方法
利点:
- 負のサンプルを不要に: 負のサンプルを使わないことで、計算コストが削減され、簡潔な学習プロセスが実現されます。
- バッチサイズ依存の軽減: Contrastive Learningのように大規模なバッチサイズに依存せず、安定した学習が可能です。
トリビアル解の回避方法:
非対照学習では、モデルがトリビアル解に収束するのを防ぐために、いくつかの重要な損失関数や構造を導入します。代表的な手法としては、次のようなものがあります。
4-7-3. 非対照学習の主要手法
1. VICReg (Variance-Invariance-Covariance Regularization)
VICRegは、以下の3つの成分からなる損失関数を使用して、モデルのトリビアル解を回避します。
- Invariance(不変性): 2つのデータ間の埋め込みを近づけることで、データ変換に対して不変な表現を得ます。
- Variance(分散): 各埋め込みベクトルの分散を保つことで、モデルが同一の定数ベクトルに収束するのを防ぎます。この分散を維持するため、ヒンジ損失を使用します。
- Covariance(共分散): 各埋め込み間の相互相関を最小化することで、異なる特徴の相互依存を抑制し、情報の冗長性を減らします。
これにより、VICRegは、埋め込みが単一のベクトルに集約されないようにし、データの情報を十分に保持した状態で学習を進めることができます。
2. Clustering-based Methods
クラスタリングを用いた非対照学習は、埋め込み空間をクラスターに分割し、データを各クラスターに割り当てることで、トリビアル解を防ぎます。具体的には、**SwAV(Swapping Assignments between Views)**などの手法があり、これにより、データのクラスタリングと埋め込みの一致を目指します。
- Sinkhorn-Knopp Algorithm: クラスタリングの際、各クラスターに均等にデータを分配するために用いられます。これにより、ある特定のクラスターにデータが集中するのを防ぎます。
- Swap Prediction: SwAVでは、あるデータペアの片方からクラスタ割り当てを予測し、もう片方の埋め込みと一致させることで学習を進めます。
3. その他の非対照手法
他にも、バッチ正規化や予測器を導入するBYOL (Bootstrap Your Own Latent) や、DINO (Distillation with No Labels) などの手法があります。これらは、明示的に負のサンプルを使用しないにもかかわらず、学習の過程でトリビアル解に収束しないことが知られています。
4-7-4. データ拡張とネットワークアーキテクチャの重要性
データ拡張
非対照学習においても、データ拡張は重要な役割を果たします。特に、ランダムクロップやカラー操作、ガウシアンブラーなどの手法が広く使われています。また、近年ではマスク法(画像の一部をマスクして情報を隠す手法)がTransformerモデルにおいて有効であることが示されています。
ネットワークアーキテクチャ
- プロジェクター: バックボーンネットワークの後にプロジェクター(数層の全結合層)を追加することで、埋め込みの表現力を向上させます。トレーニング時にはプロジェクターを使用し、評価時には取り除きます。
- Momentum Encoder: モーメントエンコーダーを使用することで、埋め込みの安定性を保ち、より堅牢な表現を学習できます。
結論
非対照学習(Non-contrastive Learning)は、負のサンプルを必要としない効率的な自己教師あり学習手法として、近年大きな注目を集めています。VICRegやSwAV、BYOLといった手法は、トリビアル解を回避しつつ、効果的にデータ表現を学習するための強力なアプローチを提供しています。さらに、データ拡張やネットワークアーキテクチャの工夫によって、精度や安定性が大幅に向上することが期待されます。
感想
非対照学習の技術は今後ますます発展し、より多くの応用が期待されます。特に、従来の負のサンプル依存から解放されることで、計算コストや効率が向上しています。読者の皆さんも、ぜひこれらの技術を活用してみてください。質問やコメントがあれば、ぜひお聞かせください!
4-8 自己教師あり学習(SSL)とジョイントエンベディング法(JEMs)について
自己教師あり学習(Self-Supervised Learning、SSL)は、ラベルなしデータから表現を学習するための技術です。特にディープラーニングにおいて、ラベル付きデータの収集が難しい分野では、SSLが大変注目されています。SSLの中でも、ジョイントエンベディング法(Joint Embedding Methods、JEMs)は、表現の学習を効率化するために重要なアプローチの一つです。
JEMsは、主に「対照学習(Contrastive Learning)」と「非対照学習(Non-Contrastive Learning)」に分類されます。本記事では、特に「非対照的ジョイントエンベディング法(Non-Contrastive JEMs)」に焦点を当て、SSLにおけるその役割や仕組みを詳しく解説します。
対照学習と非対照学習の違い
対照学習では、正のペア(類似データ)を近づけ、負のペア(非類似データ)を遠ざける手法が一般的です。この方法は効果的ですが、負のサンプルの選択やそのための工学的な処理が必要であり、実装が複雑になる場合があります。
一方で、非対照学習は、負のサンプルを必要とせず、正のペアだけで学習を行います。この手法は、実装がシンプルであり、学習時の安定性や速度面での利点があります。しかし、トリビアル解(すべてのデータが同じ表現を持つような解)に陥るリスクがあるため、その解決方法が求められています。
非対照的ジョイントエンベディング法の主な手法
1. VICReg(Variance-Invariance-Covariance Regularization)
VICRegは、非対照学習でトリビアル解を回避するために提案された手法です。基本的なアイデアは、以下の3つの正則化項を使用して、表現の冗長性を減らしながら情報を最大化することです。
- Invariance(不変性): 同じデータの異なるバージョン(例えば、異なる視点やノイズ付きデータ)から得られた表現が一致するように学習します。
- Variance(分散): データの分散が十分に高くなるように正則化し、表現が一定にならないようにします。
- Covariance(共分散): 表現の異なる成分が互いに独立するように学習し、冗長な情報を減らします。
2. SwAV(Swapped Assignments between Views)
SwAVは、クラスタリングを利用した非対照的手法で、データの埋め込み空間をクラスタリングし、そのクラスタへの割り当てを基に学習を行います。SwAVは、Sinkhorn-Knoppアルゴリズムを使用して、クラスタリングを均等に行い、トリビアル解を避けます。これにより、画像の異なるバージョンが同じクラスタに割り当てられるように学習します。
3. BYOL(Bootstrap Your Own Latent)
BYOLは、負のサンプルや対照損失を一切使用せずに学習を行います。学習プロセスにおいて、異なるビュー(視点)からのデータを使って、ネットワークが自らの表現を改善していくのが特徴です。驚くべきことに、BYOLはトリビアル解に陥らずに優れたパフォーマンスを発揮します。
4. DINO(Distillation with No Labels)
DINOは、自己蒸留を用いた非対照学習法です。DINOでは、データの異なるバージョンを生成し、教師ネットワークがその異なるバージョンに対して同じ表現を得るように学習します。この手法もまた、対照的な負のサンプルを必要としません。
非対照的手法の利点と課題
非対照的手法の最大の利点は、そのシンプルさと効率性です。負のサンプルを使用しないため、計算コストが削減され、学習がよりスムーズになります。また、多くのケースでトリビアル解を避けるための工夫が施されています。
一方で、まだ理論的には完全に解明されていない部分も多く、特にBYOLやDINOのように、なぜトリビアル解に陥らないのかについては、さらなる研究が必要です。
結論
非対照的ジョイントエンベディング法(JEMs)は、自己教師あり学習において非常に有用な手法です。これらの手法は、ラベルなしデータから豊富な表現を効率的に学習するための強力なツールとして、多くの場面で応用されています。特にVICRegやSwAV、BYOL、DINOのような手法は、実際のアプリケーションで成功を収めており、今後もさらなる発展が期待されます。
感想
今回の非対照的ジョイントエンベディング法(JEMs)に関する解説で、自己教師あり学習の奥深さを感じていただけたでしょうか?これらの手法は、特にラベルなしデータが大量に存在する現代の機械学習において、非常に重要な役割を果たしています。ぜひ、これらの技術を自分のプロジェクトにも取り入れてみてください。
読者の皆さんも、ぜひ自分なりの考えや疑問をコメントで教えてください!
というわけで、今回は以上です。大変お疲れ様でした。
引き続きで、徐々に発信していきます。
コメントや感想を受け付けています。ちょっとした感想でもいいので嬉しいです。
それでは、以上です。