生成AIを使いこなす鍵は、モデルの性能ではありません。
本当に重要なのは、「どうプロンプトを書くか」。
この一行に尽きます。

今、多くの企業が高価なモデルを導入しながら、成果に伸び悩んでいます。
その理由はただひとつ──
プロンプト設計が曖昧だからです。

本記事では、1,500以上のLLMアプリケーションから抽出された2,000件を超えるプロンプトテンプレートをもとに、

  • 本当に効果が出た書き方の型

  • 現場で使われている実践例

  • 安価なモデルでも高性能を引き出す設計思想

を徹底解説します。

読み終えるころには、
あなたのプロンプトは**ただの指示文ではなく「思考を伝える命令書」**へと進化しているはずです。🚀

https://doi.org/10.48550/arXiv.2504.02052


目次

背景|なぜ今「プロンプトテンプレート」が求められているのか?

AIモデルの精度がどれだけ向上しても、
プロンプトが不完全であれば結果も不完全です。

多くの開発者が経験する壁。

それは──
「同じLLMを使っているのに、プロンプトによって結果が全く違う」という現象です。

この課題に対応する方法として広がっているのが、

👉 プロンプトテンプレートの活用です。

これは「構造化された命令文」を設計し、
ユーザーが入力すべき情報だけを空欄にして提供することで、
誰が使っても安定した出力を得られる設計思想です。

ただし、現在広まっているテンプレートの多くは、
経験則と属人的なノウハウに頼って構築されているのが現状です。

そこで今回、GitHub上の実在アプリケーションから大量のテンプレートを収集し、
科学的に・統計的に・実践的に分析することで、再現性の高い知見を抽出しました。


実例から見えた「効果的なプロンプトテンプレート」の設計原則

調査対象となった2,000以上のプロンプトから、以下の共通項が明らかになりました。

✅ 命令文スタイルが主流

ほとんどのプロンプトは、「質問」ではなく「命令文」として書かれています。

例:
✖️「この文章を要約できますか?」
⭕️「以下の文章を300文字以内で要約してください。箇条書き禁止。」

この形にすることで、モデルの迷いが減り、安定出力が得られやすくなります。

✅ JSONで出力を構造化させるのが王道

多くのテンプレートでは、出力形式にJSON指定が含まれており、
後続処理やUI表示に最適化されています。

例:

{
  "要点": "ここに要約",
  "キーワード": ["A", "B", "C"],
  "次のアクション": "ここに提案"
}

✅ 否定制約が効果的

「〜しないでください」「〜は禁止です」といった制約文が頻繁に登場します。

なぜなら、LLMは時に「余計な説明」や「冗長な出力」を加えてしまうから。

効果的なプロンプトは、
何をしてほしいかだけでなく、
何をしてほしくないかも明示しています。


方法の紹介|プロンプトテンプレート設計の実践ステップ

  1. 目的を明確化する
     ・出力の用途(UI表示、CSV化、APIレスポンスなど)を定める
     ・誰が使うか(初心者か専門家か)を想定する

  2. 命令文として書く
     ・「〜してください」で始める
     ・あいまいな表現は避け、具体的に指示する

  3. 出力形式を定義する
     ・JSONや表形式など、モデルに明示する
     ・例を1つ提示すると、精度が跳ね上がる

  4. 否定制約を入れる
     ・「○○は含めないでください」
     ・「○○についてのコメントは不要です」

  5. 変数パーツを用意する
     ・テンプレートの中にユーザーが入力する変数部分([X]など)を明確に配置する

調査の進め方|“構造”を見抜くためのデータ収集と分析プロセス

効果的なプロンプトテンプレートとは、どのように設計されているのか?
この問いに明確な答えを出すために、研究チームは精密かつ段階的な調査手法を取りました。

単にテンプレートを眺めるだけでは見えてこない、設計の背後にあるロジックと意図を抽出するためです。


① データ収集|1,500超のLLMアプリからの実地調査

まず調査対象となったのは、GitHub上に公開されたオープンソースLLMアプリケーション

中でも、以下の3つの条件をすべて満たすものに絞られました:

  • 🌍 英語で書かれていること

  • ⭐ GitHubのスター数が5以上

  • 🔄 過去1年以内に更新されていること

これに該当した1,525件のリポジトリから、最終的に2,163個のプロンプトテンプレートが収集されました。

注目すべきは、そこに含まれるのが単なる個人開発のプロジェクトではなく、
UberやMicrosoftといった大手企業の実践的なLLMアプリケーションも多く含まれていた点です。

これにより、収集されたテンプレートは“机上の空論”ではなく、現場で成果を上げている設計思想の結晶であると言えます。


② プロンプト構造の分析|7つの主要要素で分類

集めたテンプレートをただ読むだけでは意味がありません。
そこで、共通する構成パーツを抽出し、テンプレート内部の“設計原則”を言語化する分析が行われました。

LLMと人間による協調分析によって、以下の7つの主要要素に分類されました:


🔹 役割(Role)
モデルに人格や視点を与える部分
例:「あなたはマーケティングの専門家です」

🔹 指示(Directive)
やってほしいタスクを具体的に伝える
例:「以下の文章を英語に翻訳してください」

🔹 手順(Workflow)
タスクの進め方や段階を示す
例:「まず要約し、次に分析してください」

🔹 背景情報(Context)
参考データや関連情報を提供する
例:「この文章はWeb記事から抽出されました」

🔹 例示(Examples)
望ましい出力形式や模範例を提示する
例:「出力例:『The cat is sleeping.』」

🔹 出力形式(Output Format)
JSONや表、文章形式などを指定する
例:「JSON形式で以下のように出力してください」

🔹 制約(Constraints)
出力における禁止事項や制限条件
例:「冗長な説明は避けてください」


このように、**プロンプトは単なる指示ではなく、論理的に構成された「設計図」**であることが明らかになりました。


③ プレースホルダの分類|動的要素の整理

テンプレートは、固定された構造の中にユーザー固有の入力が入る「可変領域(プレースホルダ)」を持っています。

それらを分析した結果、主に4つのタイプに分類されました:


🔸 ユーザー質問({{question}})
モデルに与える中心的な問い

🔸 知識入力({{document}})
分析対象の文章やデータ本体

🔸 文脈情報({{chat_history}})
会話履歴や流れの把握に関わる背景

🔸 メタデータ({{language}} / {{username}})
言語指定やユーザー属性といった補足情報


テンプレートは、この「固定構造」と「動的パーツ」をバランスよく組み合わせて設計されており、
そのパターンにこそ、プロンプトエンジニアリングの真髄が詰まっています。


テンプレートパターンの評価実験|出力品質との相関を検証

「構造が整っていれば、本当に出力も良くなるのか?」
この疑問に答えるべく、研究では実地評価テストも行われました。


🔬 実験の流れ:

  1. パターン別にテンプレートを分類(例:JSON出力型、制約重視型)

  2. 同じインプットでLLMに出力をさせる

  3. 指示通りに出力されているかを人間が評価


評価基準には、以下のような項目が用いられました:

  • 指示への忠実度(タスクを正しく実行しているか)

  • 出力の構造化の精度(指定形式を守れているか)

  • 無駄な文や冗長性の削減(制約が効いているか)


その結果、特に以下のパターンが高評価を獲得しました:

明確な役割付与(Role) + JSON出力指定
→ 意図通りの情報抽出が安定的に行われる

制約文を明記したテンプレート
→ モデルの“おせっかい出力”が劇的に減る

具体例(Example)付きテンプレート
→ 出力品質が跳ね上がり、汎用性も高い


これにより、テンプレート設計の**「型」こそがLLM活用の最大の武器**であるという確証が得られたのです。

1. 最も使われていたのは「指示」と「背景情報」

分析対象となったテンプレートのうち、最も出現頻度が高かった要素は以下の通り:

要素 出現割合
✅ 指示(Directive) 86.7%
🧩 背景情報(Context) 56.2%
🧾 出力形式(Output Format) 39.7%
🚫 制約(Constraints) 35.7%
🧑‍💼 役割(Role) 約31%
📚 例示(Examples) 19.9%

これらの分布から見えてくるのは、
「何をすべきか」を明確に伝え、「どう出力すべきか」を具体的に指示することが最重要であるという実務的知見です。

一方、「例示(Examples)」の使用率は2割以下にとどまりました。
これは、出力例を含めることでプロンプトが長くなりすぎること、またAPI経由で扱いづらくなるといった実装上の制限が背景にあります。


2. 最適な構成要素の並び順|“LLMが最も理解しやすい順番”とは?

テンプレートの構成順にも、明確な“勝ちパターン”がありました。

👑 もっとも効果的な並び順:

  1. 🧑‍💼 役割(Role):モデルに「誰として」応答すべきかを定義

  2. 指示(Directive):「何をすべきか」を明確に伝える

  3. 🧩 背景情報(Context)&手順(Workflow):補助情報と処理の流れ

  4. 🧾 出力形式(Output Format)&制約(Constraints):構造とルールの指定

  5. 📚 例示(Examples):参考となる望ましい出力の例

この順番は、まさに「人に仕事を依頼する時の流れ」と一致します。

👉 誰に / 何を / どうやって / どんな形で / こんな感じで
という構成が、LLMにとっても“理解しやすく、従いやすい順番”となるのです。


出力形式を制する者はプロンプトを制す|JSON指定の極意

実際のアプリケーションで多用されている出力形式は、圧倒的にJSONでした。

なぜなら、JSONはそのままフロントエンドに渡したり、APIに埋め込んだりしやすく、解析・処理にも優れているためです。

では、どのようにJSON形式を指定すれば、出力品質は最大化されるのでしょうか?


3種類のJSON出力指定方法とその効果

パターン 内容 使用割合 平均品質スコア(gpt-4o)
⚪ シンプル指定 「JSONで出力してください」 36.21% 3.21 / 5
🟡 項目名指定 「name, age, locationを含むJSONで」 19.83% 4.86 / 5
🟢 詳細説明付き 各項目の意味・型まで明示 43.97% 4.96 / 5

📌 結論:詳細説明付きが最強。

たとえば、以下のように書くと精度が大幅に向上します。

{
  "name": "ユーザーのフルネーム(文字列)",
  "age": "年齢(整数)",
  "location": "現在の居住都市名(文字列)"
}

モデルに対して“どういうデータを、どう出力すればよいのか”を明文化することで、
驚くほど出力の安定性と一貫性が増します。


制約の使い方がモデルの“暴走”を防ぐ

大規模言語モデルは、ときに余計な説明や推測を加えてしまう傾向があります。
これを抑制するには、「禁止型の制約」を明記することが効果的です。


最も使われた制約パターンと効果

制約タイプ 効果
❌ 正確性確保 「答えを作らないでください」 幻想の生成を防止
🤔 不明の明示 「わからない場合は『不明』と答える」 嘘の回避
📦 出力制御 「JSON以外の出力は禁止」 ノイズ除去
🗑 情報制限 「文書外の情報を含めないで」 ファクト保持
⚙ 技術制限 「SELECT文以外は禁止」 SQL出力精度の担保

たとえば、

「JSON形式で出力し、それ以外の文章や説明は一切含めないでください」

という制約を加えることで、
JSON以外の文が混じる率が gpt-4oで86.67% → 100%に向上しました。

このように、「やってほしいこと」と「やってほしくないこと」の両方をセットで書くことが、
最も意図通りの出力を得る秘訣です。

① テンプレートの充実度を確認する

LLMサービスを選ぶ際、最も確認すべきは、タスク別テンプレートのプリセットがどれだけ揃っているかです。

特に以下のようなテンプレートが揃っていれば、開発や業務実装の負担を大幅に減らせます。

  • JSON構造で出力される情報抽出テンプレート

  • 質問応答に強いRAG構成テンプレート

  • 多言語翻訳/要約対応テンプレート

  • 意見分析・トーンコントロール対応テンプレート

💡理想的なテンプレートは、**「役割 → 指示 → 背景情報 → 出力形式 → 制約」**という順番で構成されており、
すぐに実務に使えるパターンが揃っていることが重要です。


② テンプレート評価・改善ツールがあるか

テンプレートの精度は、一発で完璧にはなりません
継続的に改善していくためには、評価ツールの存在が極めて重要です。

たとえば以下のような機能があるサービスは、高評価に値します:

  • 同じ入力に対して複数テンプレートの出力比較

  • 出力の「形式遵守率」「構造整合性」「指示準拠率」などの自動評価

  • モデルのバージョン間比較機能

  • テンプレート改善履歴の追跡

⚙️これらのツールを活用することで、テンプレートのA/Bテストを高速かつ客観的に進められます。

また、LLMアプリを自社提供する立場にある場合は、これらのツールを自社開発して差別化要素にするという戦略も有効です。


開発現場で実践すべきテンプレート設計の技術

では、開発者としてプロンプトテンプレートをどのように設計・運用すべきか?
実証データに基づいた3つのガイドラインを紹介します。


① プロンプトテンプレートは“常に進化”させるべき

テンプレートは一度作ったら終わりではありません。
以下のような改善サイクルを回しましょう:

  • ユーザーからのフィードバックを収集

  • プレースホルダ({{question}}、{{document}}など)の最適化

  • 情報の位置調整(背景データの配置順)

  • 「曖昧な変数名」→「意味の明確な変数名」への改善

特に、textやinfoのような意味の弱い変数名は避けるべきです。
「document_text」「analysis_target」「output_format」など、
誰が見ても分かる構造を持たせることで、保守性・再利用性が大きく向上します。


② テンプレート次第で、安価なモデルも“プロ級”に化ける

注目すべき実験結果があります。
プロンプトテンプレートの工夫により、性能の低いモデル(llama3-70b-8192など)が、高性能モデルに匹敵する品質を発揮したのです。

例:

  • 長文処理の実験で、最適化されたプロンプトを使ったllama3は、gpt-4oとほぼ同等の出力精度を記録

  • JSON出力において、テンプレート内で詳細項目まで明記すると、正確性が最大値に到達(gpt-4oで4.96/5)

これはつまり、テンプレート設計の工夫がコスト効率を大幅に改善するレバレッジになりうるということです。

高価なAPIを使う前に、まずテンプレートを見直す──
これが、次世代AI活用における鉄則になります。


③ Few-shot(用例付きプロンプト)は万能ではない

「例を入れれば精度が上がる」と思われがちですが、実際の統計は逆です。

  • データセット全体の約80%以上のテンプレートは用例を含んでいない

  • さらに変数を介して動的に読み込むものも含めても、わずか5%未満

なぜ用例が少ないのか?

理由は明確です。

  • テンプレートが長くなりすぎる(トークンコストの増加)

  • タスク定義がしっかりしていれば、例なしでも十分に高精度

  • 用例が逆に出力の自由度や抽象度を下げてしまうリスクがある

📌用例は「補助的なテクニック」であり、テンプレート構造そのものを最適化する方が圧倒的に効果的である、というのが現場での真理です。


プロンプトテンプレート設計の5つの戦略的ポイント(再確認)

ここで改めて、研究と実務両面から導き出されたプロンプト設計の鉄則を整理しましょう。

構成と順序がすべてを決める
 →「役割 → 指示 → 文脈 → 出力形式 → 制約」順が最も効果的

出力形式は詳細指定が命
 → JSONの場合、「項目名+型+意味」を明記すること

制約は“してほしくないこと”を明記する
 → 禁止型制約の導入で出力の一貫性が最大化される

長文データは前に置くな
 → 背景情報は後ろに配置、要約やポイント抽出の指示とセットで

性能が低いモデルもテンプレート次第で一流に変わる
 → モデル選定前に、まずプロンプトを見直す


まとめ|プロンプトテンプレートは「LLM活用のOS」になる

本記事では、1,500件以上のLLMアプリを分析し、
実証的かつ実務的なテンプレート設計の原則を明らかにしました。

  • 出力品質を決めるのは、モデル性能よりもテンプレートの構造

  • JSON出力は詳細指定が最適解

  • 制約条件との組み合わせで出力の正確性と再現性が高まる

  • Few-shotは万能ではなく、テンプレート自体の最適化が本質

これらの知見は、単なる「応用テクニック」ではなく、
LLMを業務で本気で活かすための“設計思想”そのものです。

最新情報をチェックしよう!

論文の最新記事4件